第17話 魔王戦 準備編 その4

文字数 4,684文字

「ご主人様よ、まずは拳銃を手にとって欲しいのじゃ」

 ダメ元でアルファに何か打開策がないかどうか聞こうとしたら、まさかのまさか拳銃で無双できる可能性が浮上したぞ! やったな!
 アルファに言われたとおり、拳銃嚢(ホルスター)に入れていたデザートイーグルを手に取る。
 なんでVP9じゃないのかって? 無駄弾を撃っていた時に、こっちの拳銃に胸がときめいたからだよ、言わせんな恥ずかしい。

「あ……やっぱ今のは無しじゃ。ご主人様に直接『命中強化』を付与してもらおうと思っていたのじゃが、今のご主人様じゃそんな芸当は出来ないのを忘れていたのじゃ。代わりに弾を手にとって欲しいのじゃ!」
「……アルファを詐欺罪と事実陳列罪で訴えます! 理由はもちろんお分かりですね? あなたが私を期待させるだけさせておいて、私の心を破壊したからです! 覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用で来てもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい! 貴方は犯罪者です! あとからお仕置きされるのを楽しみにしておいて下さい! いいですね!」
「さっさとして下さい、健人様」

 くそっ! 誰もこのネタに反応してくれない!
 リードにも怒られてしまったので、ショボンとしながらデザートイーグルの弾である.50AE弾1発を弾薬箱から取り出して、手に持つ。

「うむ。じゃあ、その弾に試しに爆発の魔術を付与してほしいのじゃ。頭の中に何かが大爆発したイメージを思い描いて、ギュッと弾を握れば出来るはずじゃ! この作業ばかりはご主人様がやらないと意味がないからの」

 まあ、たしかにアルファの力が使えるかどうかを試すためにやっていることなのだから、それは納得できるのだが……大爆発ねぇ。
 アルファの力がどれくらいすごいのか体感したことがないから、どれくらいの威力を想定したら良いのか全く分からん。
 学校の実験でやる水素爆発のようなレベル? それとも何かに引火して家が吹っ飛ぶレベルの爆発? はたまた、街が消し飛ぶレベルの爆発か?
 まあ、リードの家の庭のデカさを考えると……一軒家が吹っ飛ぶレベルであれば被害は出ないだろう。よし、それでいこう。
 アルファの言う通り、家が吹き飛ぶ爆発をイメージして、手を強く握る。
 ……なんだ? 体の力がどんどん吸い取られていくような……アルファから魔力の供給がされているが、それ以上の早さで外部に力が抜けていっている。
 あぁー、やる気が無くなっていく……そう、これはあの感覚だ。賢者タイムの感覚だ……

「……おぉ……! 喜べご主人様! これはすごい発見かもしれん! ほれ、早くその弾を撃ってみるのじゃ!」

 ……えっ……? 俺が撃つの……? なんか全てのことがどうでも良くなって、やる気が起きないんだけど……
 だらしなくなっている俺を見かねて、ミネが俺の拳銃嚢(ホルスター)からデザートイーグルを抜き取り、弾倉(マガジン)を取り出して、さっきの弾を装填してくれる。

 優しいミネはそれだけではなく、再度弾倉(マガジン)を差し込み、スライドも引いた上で俺に拳銃を渡してきてくれた。
 俺の動作を見ていただけだろうに、銃の扱いを完璧にこなしてやがる……なんて恐ろしい子なんだ……!

「ご主人様、頑張って下さい!」

 ……なんだか……やる気が……みwなwぎwっwてwきwたwww
 あの動きはしなかったが、おかげさまで賢者タイムから抜け出すことが出来た。

「ありがとう、ミネ」

 ふっ、という文字が書かれそうな感じでお礼をいった後、再度リードに的をしてもらう。

「……《障壁展開》!」

 リードも防御態勢は万全。まあ、いくらなんでもあの障壁を一軒家が吹き飛ぶ爆発で突破できるとは思えないし、リードが怪我をする心配もないだろう。
 安全装置を解除して、リードの胴体に照準を合わせる。
 ……うーん。

「ミネ! リードに向けて障壁を展開できるか?」

 隣で様子を見ていたミネに尋ねる。
 いや、別にリードの身になにかあったら嫌だとか、そんなことは考えていないから。ミネの障壁を見てみたかっただけだから!
 ミネは『健人さんは優しいですね!』と笑顔で言いながら障壁を張ってくれたが、そんなんじゃないから! 俺は優しくなんて無いから!

「……じゃあ、撃つから。遠慮なく撃つから」

 今すぐにリードの生暖かい目を止めさせたいところだが、なにか言うと墓穴を掘りかねないので無視する。
 引き金を引き、少し聞き慣れ始めた発砲音が耳を通り抜ける。弾は障壁を……貫くことなくいつもと同じようにめり込んだ。

「……あれ? 爆発しないんだけど」

 失敗か? そう思って駆け寄ろうとした瞬間

「ご主人様! 障壁を展開するのじゃ!」
「え……」

 魔術を唱える間もなく、直後に大爆発が起きた。
 俺が想像していたものよりはるかに強力は爆発だった。そう、この威力は……街が消し飛ぶレベル。
 なんで障壁を展開できなかった俺がこんなにも冷静に物事を判断できているんだって? 俺にも分からんが、なんか防壁みたいなものが俺の周りに展開されてるっぽい。障壁よりも透明度がなく、すりガラスみたいな感じだから周りがよく見えないんだが、音と地面や体の振動から言って、想定していた爆発よりは大きいと判断したのだ。
 隣りにいたミネと顔を見合わせる。彼女は目をまん丸にして驚き! みたいな感じだ。多分俺もそんな顔をしているだろう。
 しばらくじっと爆発の余波が収まるのを2人で待っていると、スッと防壁が溶けるように無くなって、庭の惨状が目に入ってきた。
 まずリードの生存を確認する。大丈夫そうだ。よかった……
 ぐるりと周りを見渡す。爆発の中心部だったリードたちが居たところは、地面が大きくえぐれていた。というか、屋敷があるところの寸前まで地面がえぐれていたが。

「健人様……私になにか恨みでもあるのですか? 今のは、確実に殺すという意思が垣間見えるレベルでしたが」
「私も、リードさんを事故と見せかけて殺そうとしたのかと……」

 さすがのリードも冷や汗ものだったらしい。というか、ミネまで俺を殺人鬼にしようとするな。どんだけ信用ないんだよ。

「誤解だ。俺がリードにそんなことをするはずがないだろ? 俺はアルファに言われたとおり、家が消し飛ぶ爆発を弾に込めただけだ。他意はない」

 リードが顔を少し赤くする。いや、今ので照れるとか……かわいいな、おい!
 おっと、話がずれた。俺が言ったことは事実である。殺そうという意図があったのであれば、それはアルファのほうが可能性が高いだろう。さっきからずっとアルファが黙っているのも怪しいし。

「……コホン。まあ、それもそうですね。この庭の設備である『すごいぞ! 防壁君!』を使っていないと私のみならず健人様とミネも今頃灰すら残っていなかったでしょうし」

 さっきの防壁はそれだったか。

「ネーミングセンスはどうかと思うが、おかげで助かったよ。ありがとう」

 リードは顔を赤くながらプイッとしたままだが、少ししたら機嫌を直してくれるだろう。
 というか、単純に照れているだけだろう。

「おい、アルファ。さっきから黙ってばっかりだが、これは成功で良いのか? それとも失敗か? どっちなーんだい!」

 胸をピコピコさせてルーレットさせる芸人のようなノリでアルファに問いかける。

「……妾も想定外だったのじゃ。もしかしたら、とは思っていたのじゃが……まさか本当にあんな威力を叩き出せるとは。しかし、これは嬉しい誤算じゃぞ!」

 まあ、実際嬉しい知らせではあった。あんな威力の攻撃を引き金を引くだけで敵に撃ち込めるなんて、まさにチート。無双できちゃうレベルだ。
 しかも、あれは何度も言う通り、一軒家を吹き飛ばすレベルがあの威力になったということ。もし俺が国を消し飛ぶ爆発を想定して弾に魔術を付与したら……あれ? 俺、最強じゃね?
 しかも、爆発以外の魔術も同じように頭の中で想像したら弾に付与することも可能だろう。
 ……怖いもの無しじゃね? え? 俺TUEEE展開来ちゃいます?

「じゃがなご主人様。さっきの魔術付与で分かったことなのじゃが、あれにはめちゃくちゃ魔力を消費するのじゃ。魔術の中でも最強と言われているものを付与しようものなら一瞬で魔力が枯渇してしまう。ただ、さっきの威力じゃ今回の敵に有効打を与えることはできないと思うのじゃ。つまりは……もう少し威力を挙げたものを付与しようと思うと……」
「思うと……?」

 ゴクリと喉を鳴らす。

「1日1発。これが魔力が完全に枯渇せず日常生活に支障が来さない最大の数じゃ。これ以上は質を保ちながら魔術を付与できなくなるからやめておくのじゃ」

 ……1発……?
 魔王戦まで、当日を抜くのであれば残り5日。つまりは、たった5発しか弾を用意できないと。
 魔王候補生相手に5発以内に有効打を与えろと? よほど運が良くないと無理じゃね?
 残念ながら俺の無双物語は泡となって消えた。


 あの後、なんとか出来ないのか? とアルファに聞いてみたが、

「魔力保有量も魔王の鍵で1番多いと自負している妾でもどうしようもないのじゃ。というか、魔術を弾に付与する時に力のロスが大きすぎるのじゃ! 同じ魔術を放つだけならば何発でもいけるとは思うのじゃぞ? でも、弾に込めるという工程を挟むと……無理じゃ」

 無理という回答を頂いた。まあ、そこらへんに詳しいアルファがそういうのだから無理なんだろう。
 ちなみに、もののついでに魔力が何なのかも聞いてみたところ、『体力みたいなもの』と言われた。より詳しく言うと、アルファが保有していて彼女自身が日々生産しているものと、俺の体力を魔力に変換したものを合わせたものが俺自身の総魔力保有量になるらしい。
 魔術を付与した弾、通称魔術弾を作れるのは、その合計の魔力を使って1日1発。まあ、彼女が無理だという理由も理解できるというものだ。
 庭の後処理に関しては、『すごいぞ! 復元君!』とかいう魔術道具を使って一瞬で元通りになった。『すごいぞ!』シリーズは有能なんだが、もうちょっと名前を考えて欲しいと思う。

 次の日から俺の魔術弾製作ライフが始まった。
 朝、起きたらすぐに.50AE弾を取り出して魔術付与をする。なんでデザートイーグル用の弾なのかと言うと、単純に素の威力が強い方を選んだだけ。特に意味はない。
 付与する魔術も決めており、今回は火、水、氷の3つにした。5大元素とか言われているものがあるらしいが、今の俺の技量じゃこれが限界らしい。仕方ないね。
 魔術を付与した後はずっとダラダラして1日を過ごす。
 え? 時間がもったいないから夜にその作業をやれって?
 残念ながらそれだと1発でさえ魔術弾が作れなくなるので駄目らしい。
 いやー、俺もたくさん魔術の練習とかしたかったんだけどなー。でも、これだとしょうがないよなー。いやー、本当に困ったわー。
 こんな様子なので学校もついでの勢いで休んだ。
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