第16話

文字数 455文字

 手紙には僕がいなくなっても、呪文を自分で唱えれば、きっとうまくいく。君はなんでも出来るんだから、自信をもって、と書いてあった。呪文は紙に書いたら効力がなくなってしまう。けれど君は覚えているから大丈夫だよね。いつまでも、あいしてる。

 手紙の終わりのサインは、「君だけの魔法使いより、周」と書いてあった。

(ごめんね、周さん。私は嘘をついていました)

 美沙子は心の中で周に語りかけた。

(もうずいぶん前から、周さんが魔法使いじゃないって、分かっていました。呪文が反対から言った言葉だということも、気付いていたんです。周さんが呪文を手紙に書かなかったのは、文字で見たら、呪文が逆さ言葉だと、私が気が付いてしまうと思ったからでしょう?

 周さんは私のことを、ずっと出会った時のまま、夢見がちな娘のままに見ていてくれていました。
 私には、周さんが恋した女の子はもう消えてしまったなんて、とても言えませんでした。あなたの愛がなくなってしまうのが怖くて。
 それに……、呪文をかけてくれる時のあなたの手の暖かさが好きだったんです。
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