第5話

文字数 493文字

 しかしその日、美沙子にしては珍しいことに、初めて訪れる喫茶店のテーブルでたったひとり、メニューを開いていた。

(今日は家で録りためた映画を観ようと思っていたのに。でもまあこんな頼まれごとでもなければ、休日に喫茶店に一人で出かけてくるなどということはないのだから、たまにはいいかな。さて、何にしよう?)

 メニューを丁寧にめくっては眺める。

(そうだ。朋美のかわりに、喫茶店に行ってみたレビューを書かないといけないんだから、何か食べてみようかな……。朋美はコーヒーの一杯でも飲んでみてくれればいいから、と言っていたけれど)

 昨日の夜に電話してきた朋美のゴホゴホという咳まじりの声を思い出して、美沙子は心配になって少し眉をひそめた。

「風邪をひいちゃって。悪いんだけど、私のかわりに風見鶏っていう喫茶店に行って、お店のレポートを書いてくれないかな? 〆切り、明日までなの」

 朋美がタウン誌のライターのアルバイトをしているということは、美沙子も知っていたし、朋美が書いた記事を読んだこともある。美沙子は朋美に同情したのと、お店のレビューを書くというのがおもしろそうだな、と思って引き受けたのだった。
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