第2話

文字数 488文字

 しかしこの年でよかった。もう少し早く私の寿命が尽きていたら、未亡人となった君は、誰かとまた新しい人生を歩んでいたかもしれない。でもまあ、今なら……、君が他の誰かと一緒になることは多分ないだろう。君の性格も考えると。

「僕のことは早く忘れて、僕ではない人とこれからの人生を楽しんで欲しい」
 なんて、書かなくてすむのが嬉しい。最期の手紙で嘘は書きたくないからね。

 いや、待てよ。嘘……? そうだ。僕は君に、最期の嘘をつかなければならない。なぜなら今までついてきた嘘を、守り通さなければならないからだ。そしてそのためには、魔法の呪文も書かない方がいいだろう。

 たった一つ、それならどうだろう? たった一つだけなら。
 僕はペンを走らせたのち、したためた呪文を見つめた。ダメだ、やはり呪文を書き遺すことは出来ない。呪文を文字にしたら、きっと君に嘘がばれてしまう。

 ふう、とため息がこぼれた。仕方がない。僕は呪文を書き記した手紙を破り捨て、新しい便箋を用意した。
 たとえこれが君に残す最期の手紙だったとしても、君を悲しませるよりは嘘つきでいることを選ぶ。僕は手紙にサインして、封を閉じた。
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