第10話 過去 周
文字数 433文字
周は生物学者だった。
研究が忙しく出会いの少ない周と、内気すぎる美沙子とのお見合いの話が持ちあがった時、美沙子の母は「お見合いといっても美沙子は承知しない。ならばいっそ、本人の知らない所で、お見合いさせてしまいたい」と言った。
「それなら断られても本人には分からない。もし周さんの方で美沙子を気に入ってくれたなら、口説いてもらえないだろうか? 口説けなければ、いずれにしても結婚など無理な話なのだから」
その少し奇妙な提案を、見合いの話を持ち込んできた美沙子の母の友人は、面白がって周に伝えてくれた。
「それでもいいから」と周が了解すると、美沙子の母は秘密のお見合いミッションの手伝いとして、幼なじみの朋美に白羽の矢を立てた。美沙子を知り尽くしている朋美に、ときめきそうな出会いを考えて設定してほしいと頼んだのだ。
つまり朋美が風邪をひいたというのは嘘だった。ただし喫茶店のレビューを書くアルバイトは本当だ。「嘘は真実にまぜて」と、朋美は自信ありげに計画を請け合った。
研究が忙しく出会いの少ない周と、内気すぎる美沙子とのお見合いの話が持ちあがった時、美沙子の母は「お見合いといっても美沙子は承知しない。ならばいっそ、本人の知らない所で、お見合いさせてしまいたい」と言った。
「それなら断られても本人には分からない。もし周さんの方で美沙子を気に入ってくれたなら、口説いてもらえないだろうか? 口説けなければ、いずれにしても結婚など無理な話なのだから」
その少し奇妙な提案を、見合いの話を持ち込んできた美沙子の母の友人は、面白がって周に伝えてくれた。
「それでもいいから」と周が了解すると、美沙子の母は秘密のお見合いミッションの手伝いとして、幼なじみの朋美に白羽の矢を立てた。美沙子を知り尽くしている朋美に、ときめきそうな出会いを考えて設定してほしいと頼んだのだ。
つまり朋美が風邪をひいたというのは嘘だった。ただし喫茶店のレビューを書くアルバイトは本当だ。「嘘は真実にまぜて」と、朋美は自信ありげに計画を請け合った。