第1話 夫のきもち
文字数 403文字
君は僕がいないとだめだから、心配だ。僕ももう73歳を超えた。2年前に人間ドックで見つかった前立腺がんは、特に悪さをすることもないまま、ゆっくりゆっくりと進行し、とうとう医者から余命宣告を受けた。
生き物は生まれればいつか命を終える。生物学者の僕には、それはごく当たり前の道行きと思え、動揺はない。けれどたった一つ、気にかかるのは遺していく君のこと……。
年齢を重ねても、いつまでも少女のようで、夢見がちな君は今でも、何をするにも僕に頼っているのだから。
だから僕がいなくなっても大丈夫なように、僕が君にかけていた魔法の呪文を、書き留めておこう。僕がいなくても、君がいつでも呪文を使えるように。
ノートではなく便箋に書くのは、君への最初で最後のラブレターだから。
「僕がいなくても大丈夫なように」と、この手紙の出だしに書こう。でも手紙を書く本当の理由は、僕が君の「大丈夫」にいつまでも関わらせて欲しいからだ。
生き物は生まれればいつか命を終える。生物学者の僕には、それはごく当たり前の道行きと思え、動揺はない。けれどたった一つ、気にかかるのは遺していく君のこと……。
年齢を重ねても、いつまでも少女のようで、夢見がちな君は今でも、何をするにも僕に頼っているのだから。
だから僕がいなくなっても大丈夫なように、僕が君にかけていた魔法の呪文を、書き留めておこう。僕がいなくても、君がいつでも呪文を使えるように。
ノートではなく便箋に書くのは、君への最初で最後のラブレターだから。
「僕がいなくても大丈夫なように」と、この手紙の出だしに書こう。でも手紙を書く本当の理由は、僕が君の「大丈夫」にいつまでも関わらせて欲しいからだ。