高級ジュエリー店のショーケースのような音楽

文字数 1,029文字



 私には、7つ違いの従兄がいる。
 互いの家が近かったこともあり、それぞれの兄弟、従兄姉同士の齢も近く、ずっと身近で親しい間柄であった。
 その中で、とりわけ音楽好きな従兄からは、ポピュラー音楽の手解きを存分に享受させてもらった。
 自分の中で、音楽の扉がしっかりと開いたのは、中学一年生の時にレコードの針を降ろしたThe Beatlesを体感したことが絶対的な確信であった。そのビートルズのLPの持ち主も、この従兄。当時、従兄は東京で一人暮らしをする大学生。帰省する度に仕入れてくる東京でキャッチしてきたレコードやテープは、あたかも自分にとっては刺激的な教材であり続けてくれた。
 ちょうどその頃、世の音楽シーンは、ジャズ・フュージョン、アダルト・コンテンポラリーのムーブメントが最盛期を迎えていた。
 「ビートルズもいいけど、こういう音楽も聴きなさい」
 そのように促されながら、私もいつしか従兄が聴いているジャンルの音楽ばかりをチェックするようになっていった。
 そんな数ある教材の中で、ある時従兄は、一人のミュージシャンをピックアップしてくれた。
 それは、ボブ・ジェームス。
 多感な内部構造に満ちた思春期男子のハートは、彼が繰り出す音の世界にたちまち引き込まれていった。何という洗練され上品な、都会的で、お洒落でハイセンス、また繊細且つ自由で大胆な音楽なのだろう。今列記した文字の通り、一言では到底言い表すことができない、それまで味わったことのない深みが、この音楽の中にぎっしり詰め込まれていた。
 特に圧倒されたのが、1980年に発売されたLIVE盤『All Around the Town』だ。スタジオ録音盤の完成度とは違った、LIVEならではのドライブ感と即興性の味わいが加わり、これが同じ人間のなせる技なのかと、ひれ伏し感嘆の想いにため息すら発してしまうような体験であった。
 そんな体験から、今年で41年になる。ボブは、今年81歳だという。ということは、あの音楽を作っていたのは30代の頃であったのかという、ここでも改めての新鮮な驚きに包まれてしまうのだ。
 今、このアルバムの音楽を聴いても、その音はまるで未来の音のように感じられる。己の中での感嘆というステージから引き摺り下ろされることは一切なく、その音はまるで、高級ジュエリー店のショーケースの中のような世界なのだ。
 ボブ・ジェームス。
 彼の音楽は、何時も私の五感を刺激し、創作意欲の原点を支えてくれる。
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