They moved away from the city.

文字数 966文字

 都会から離れた。北上した。
 東京を出て埼玉を超え、栃木県に入ってからは休み休み走り、佐野市を超え小山市を超え宇都宮市を超えてまだ走った。
 大麻栽培に適した、人目の無い場所を探した。誰もいない村があればよかった。
 しかし畑ばかりの緑豊かな田舎でも、コンビニくらいは営業していた。

「おにぎり二個だけで足りるんですか?」

 コンビニの駐車場で一息ついて、辰雄は弁当とコーラをがっついて食べていた。
 若さを感じた。白米と肉の弁当を食べる辰雄の姿はエネルギッシュだった。
 晴敏自身は、おにぎりとお茶だけだった。昭和の様だった。それも晴敏が生まれる前の昭和の前半の様な、素朴な食事。
 例えば自分が結婚していて娘がいて、その子がおにぎりとお茶の弁当を持たせてくれたらそれは美しい事だと晴敏は思う。
 田舎で、静かな仕事をしながらそう生きられたら、良かった。そんな有り得なかった未来の一つをコンビニのおにぎりで代替して、それなりにお腹は膨れた。弟分と飯を食う、こんな一瞬だって幸せを感じて誰も咎めない筈なのに、味だけでなくその製造過程にも精神性を求める自分を晴敏は卑しく思ってしまう。
 贅沢が過ぎる。

「運転」

 晴敏が食後の一服を終えた時、辰雄はまだ食べていた。

「代わろうか」

「大丈夫ですよ別に。ゆっくり行きましょうよ」

「遠足じゃねーんだぞ」

「そりゃそうですけど、俺楽しいですよ。兄貴と二人で旅行なんて」

「そんな楽しいもんじゃないだろ。破門がかかってんだ」

「でももし破門されたら、二人で新しく組作ってもいいんじゃないッスか」

「はぁ?」

 馬鹿かよ。と思いながら言わないでいた。それが出来るならそれをしてもいい。しかし辰雄には「破門」と言ったが本家の村松会は明確に、自分達を殺したがっている。
 嫌われ者で、本家の思惑通りに動かない茅野がようやく死んだ。空いた総本部長の座には藤堂組長が入り、あとは一応の形として、茅野の仇を取ればそれで丸く収まる。

(俺と辰雄が死ねば、全てが上手くいく)

 このまま、姿を眩ませてしまいたかった。晴敏にとっては藤堂組長が殺されようがもう知った事ではない。しかしそれも難題で、本家の網は全国に伸びている。リスクが高い。辰雄を死なせたくないから、他に方法を探す。
 晴敏は、

「組員が一人じゃ、かっこつかねーよ」

 閉塞感に苛まれていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み