Looking at the cut pinky finger.

文字数 914文字

 詰めた小指を見ていた。
 そろそろ包帯も取れるが、取らなくてもいいような、膿もうとも腐ろうともそれが、つまり何なのかを、頭が考えてくれない。自分の指なのに、興味が湧かない。

「オレオレ詐欺やりましょうよ、田舎のジジババ相手に」

 弟分の古田辰雄がそう言った。
 助手席に乗っていた杉田晴敏は、その言葉にもいまいち、興味が湧かない。
 都内のネオン街を背にして走っていた。辰雄はダイハツタントを運転しながら、途切れない夜の街並に疑問の一つも持たないでいる。

『続いてのナンバーはキング&プリンスで』

 と、ラジオが言ったところで、局を変えた。

「足がつかなきゃな」

 晴敏は、まだ小指を見ている。
 最近の車は燃費がいいな、と、ただ、そんな事を考えていた。

 四十にもなって、親の顔色を伺って生きている。
 晴敏はもう成り上がりたくもなかった。金を集めて上納して、気に入られる為の言葉を探す。面倒臭くなってきた。なってきたから、コンビニあたりのバイトでこの先を生きていこうとも思った。
 夢があった。辰雄をカタギに戻したい。
 深い意味は無い。生きる上で、何か一つ目的というか、標となるようなものが欲しかった。でなければ息を吸って吐くだけの植物の葉の様な存在になる。辰雄はまだ二十五歳、自分を慕ってくれているから、ヤクザを辞めさせて真っ当にしたい。辰雄の意志も聞かずに漠然と考えていた。

『……光GENJIでガラスの十代でした』

 合わせたラジオは、丁度CMに入ったところだった。

(聞きたかったな、今の曲)

 好きでもない曲。けれど聞けばノスタルジーに浸れたかも知れない。小学校で、教師から体罰を受けていたあの時代に、戻れたかも知れない。

 組の為には金が必要だった。
 本家と些細な諍いを起こして、許されるには金を送るしかない。コンビニのバイトでは届かない額だった。

「どうせ田舎に行くなら、葉っぱがいい」

 晴敏が煙草に火を付けた。煙を吸って、吐く。窓も開けず。

「大麻の栽培のがウマいやり方だろうよ」

「なーるほどぉ、兄貴、経験あるって言ってましたもんね大麻栽培」

 赤信号で止まると辰雄が助手席の窓を開けた。晴敏が空を見上げると、散り散りの雲の合間に半月が滲んでいた。
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