第14話 星月夜

文字数 1,709文字

星にスイングしたいのかい?
鍋に月の光を入れて持って帰ろう
今よりよい子になりたいのかい?
それともラバになりたいの?

ラバは長い変な耳の動物で
聞こえた物は何でも蹴っ飛ばす
背中は筋骨たくましいけど
ただの馬鹿
頑固で猪突猛進のね
ところで学校をサボってばかりいると
ラバになっちまうかも知れないぜ

星にスイングしたいのかい?
鍋に月の光を入れて持って帰ろう
今よりよい子になりたいのかい?
それともブタになりたいの?

ブタの顔はほこりだらけ
足はひどく汚れている
「作法それなに食べられるの?」
ブタはエサを食べては
ブクブク太って怠けてる
そして(トン)でもなく無礼だ
でもお前さんが服装や見た目を気にしないなら
ブタになっちまうかも知れないな

星にスイングしたいのかい?
鍋に月の光を入れて持って帰ろう
今よりよい子になりたいのかい?
それともサカナになりたいの?

サカナは何もしないんだ
小川を泳いでいるだけさ
自分の名前すら書けないし
本だって読めない
人を馬鹿にすることだけ
考えていて
ツルツルしてるから
捕まらないと思っているが
やっぱり捕まっちゃう
でもそんな風に生きたいと思ってるなら
お前さんはサカナになっちまうかも知れないな

駅は公共の場で前触れなく行うパフォーマンス、つまりフラッシュモブを行うには最適な場所だ。京都駅前には大きな百貨店があって、駅のそばには大きな上下のエスカレーターがある。中村さんは京都のニュース番組「京いちにち」で宣伝した後なので、今回は京都駅と、大型百貨店と、念のため京都市にも事前に許可を取り付けた。5人で三か所を回ってお願いしたが、幸い皆快諾してくれた。ありがたいことに、僕たちが歌う午後9時から10時はBGMを流さないと言ってくれた。
そして僕たち5人が少し離れても声が途切れないように、身につけるマイクと小型のスピーカーも何個か設置して、何度もテストした。これは特にエスカレーターに乗って上下するとき大切なことだった。
今夜は天候も良く、晴れて風もなく、たくさんの星が京都タワーや街の灯りにも負けずに上方の紺色の空に輝き、空はゴッホが精神病院で描いた絵のように、うねうねと青や紺色の筆跡を残していた。月も爪のように細い姿を見せていた。


生成AIアプリで英語のテキストを入力して生成したゴッホ風の絵。

二回目のフラッシュモブは、観光客や仕事帰りの人が大勢駅を利用しているそれほど遅くない時間に行われた。
ビング・クロスビーって知ってる? 中村さんはもちろん知っていて、彼のおじいさんの世代にアメリカでばかうけした歌手。おじいさんはコロラド大学に留学していて、同校には彼の名を冠した「ビング・クロスビー・ホール」がある。優しい風貌とビロードのような声で一世を風靡し、この歌は牧師役のビング・クロスビーが子どもたちと歌う『我が道を行く』という映画から取られた。中村さんは高校の図書館でDVDを借りてきてみんなに見せてくれた。なるほど牧師さんが子どもたちに歌う歌だから、ちょっとお説教ぽいんだね。この「星にスイング」より「ゴーイングマイウェイ」というビングが自分の人生を振り返る曲の方が日本では有名かも知れない。だけど僕らは皆30歳以下の青二才なので、まだまだそんな歌を歌えるタマではなく、中村さんはこのアップテンポで楽しい歌にしたのだろう。
僕たちはエスカレーターを上下しながらこの歌を歌った。機械は、僕が設置とテストを行ったが、雑踏にもかかわらず完璧に作動し、音割れも起こさずに僕らの声を正しく拡散した。お年寄りの方が懐かしそうに立ち止まって聞いてくれたり、若い人は知る由もないが一緒に身体を揺らし(知らん歌やけどリズムは悪くはないね?)、僕たちはエスカレーターから降りて駅のコンコースに集合して歌い、子どもたちを見つけると、ラバになっちゃうよ、ブタになっちゃうよ、サカナになっちゃうよと軽く脅した。
金曜日夜行われたこのフラッシュモブの一部始終は京都のローカルニュース番組「京いちにち」で放映され、日曜日のコンサートに向けて再度の良い宣伝になった。ホールと京都市役所に設けられたチケット売り場での売れ行きは順調で、2000席のチケットは土曜日中に完売した。

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