第2話 魅惑の一夜

文字数 490文字

魅惑の一夜は
百の幸運な日より
大きな喜びを与える

夜と私は好みを改良し
歓びが長く続くようにする
千ものいくつもの
方法で

毎日夜11時になると、この合唱団は伴奏なしでこの小さな歌を歌う。イギリスのヘンリー・パーセルという人が作ったオペラ「妖精の女王」からの曲だ。僕は歌は歌えないので、トライアングルを持って、いいなと思うところでこの楽器を鳴らす。
踊り場のある階段の横で、メンバーは何度もこの歌を繰り返す。お寺か教会で聖歌を歌うように夜中の12時まで繰り返すと、この建物の中に1つの「空気」が生み出される。
この空気に当たって逃げ出した人も過去にはいたが、僕は身体全体が優しく包まれる気がして、幸福を感じた。歌を歌えないので、指揮者で高校の音楽の先生である中村さんにトライアングルを借りて演奏に「加わった」。
音楽の素養はまったくないにもかかわらず、トライアングルの音は歌の邪魔をせず、また数人の歌い手たちに不快感を与えなかったので、僕はこの合唱団の建物、聞くところによるとむかし英国貴族が日本の景色や植物に惚れ込んで建てた「アール・グレイの館」に、元会社の上司である潮見さんとともに迎えられた。
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