第11話 フキラウソング

文字数 1,558文字

フキラウ(地引き網漁)に行こうよ
フキフキフキフキフキフキラウ
みんな大好きフキラウ漁
塩漬けの魚にしてさ
お祀りして宴会で食べよう

地引き網を海に投げると
アマアマ(ボラ)が
こっちへ寄ってくる
フキラウ漁に行こうよ
フキフキフキフキフキラウ

今日はフキラウ漁日和
ハワイ伝統の地引き網漁
ライエ湾に向かって
網を投げるよ



まだ梅雨も明けないのに30度とか31度とかなぜ? 地球温暖化? いや、あの連中は都合のいいように「ホッケースティック曲線」を引いた。地元の図書館で地球温暖化はデタラメだ、二酸化炭素は悪者じゃないという本を少なくとも二冊読んだ。科学者の僕も納得した。彼らはコンピュータのない昔から地質を研究しており、その時代の曲線を入れると、コンピュータで都合の良い補正した曲線を作った彼らとは違って、むしろこれから寒冷化に進む可能性すらあると言う。ベルリンに行ったとき、列車待ちのキオスクで買ったニュース週刊誌『シュピーゲル(鏡)』で一冊丸ごとバッシングされ、日本ではその外見から特に女性に嫌われた大富豪の米国元大統領が、ホワイトハウスの緑の芝生を歩きながら温暖化について記者たちに聞かれ、
「地球はむしろこれから寒冷化するかも」
と言ったのを聞いたとき、この人は本当に世の中のことを分かってるんだと確信した。
閑話休題。
それにしても暑い。日曜日の昼下がり太陽はギラギラと照りつけ、みんなアール・グレイの館中の窓を開け、一階の食堂で大型扇風機を回して涼んでいた。館が作る影と、庭に面した大きな窓のおかげで、誰もエアコンをつけなかった。
そのとき緑の芝生の庭を臨む大窓の窓枠の中に、大きなピンク色の物体を持った指揮者の中村さんが現れた。みんなを手招きしている。
みんなでゾロゾロ出て行ってみると、中村さんの持っていたのは、子供用のビニールプールを三倍くらいのサイズにした、バービーピンクのプールだった。外部から木々で囲まれて見えない、昔池があったくぼみにみんなで設置し、中村さんが館からホースリールを引いてきて、ピンクのビニールプールに水をいっぱい溜め、木の上からホースを足らし、先端にシャワーヘッドを取り付けて勢いよく雨を降らせると、意外に堅牢なプールが完成した。
それからレトロなラジカセで、ハワイの短い歌を一曲、繰り返し流していた。僕たちはバラバラにビニールプールに足をつけ、たまらなく気持ちよかったので水着一つになって水に入った。木陰と常に継ぎ足される水と、中村さんがクーラーボックス一杯に持ってきた氷をみんなで三杯ピンクのプールにぶちまけたおかげで、涼しさは保たれた。
みんなは当然日影の中、水に浸かって音楽に注意を払っていなかったが、中村さんがハワイ語の混じった英語で、手にしたキーボードでハワイアンに欠かせないスチールギターの音を出しながら、反復する短いカセットテープに合わせて冒頭の歌を歌いだした。
それは簡単な英語でハワイ語も中村さんは歌いながら説明したので、三回目からはカセットデッキを止め、中村さんのキーボードに合わせて僕たちは知らない間にその歌を歌い、フキフキフキフキやっていた。
暑い日には、みんながかわりばんこに貯蔵した大量の氷を運び、ホースリールをガラガラと伸ばして、バービーピンクのビニールプールに水を満たした。
後にそれは夜も行われ、アール・グレイの館のチャント時間である夜11時から12時は、ビニールプールの上には蚊帳が張られ、中村さんが高校の演劇部から借りてきたスポットライトで照らし、みんなでフキラウ漁のハワイアンをフキフキフキフキ歌うと、ピンクのビニールプールにさざなみが立った。こうして僕たちはまた、遊びながら中村さんに新しい夏の歌を教え込まれた。暑い日は「今夜はフキだね?」が合唱団メンバーの合い言葉になった。


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