第4話 ああ!愛とは何と力強いことか
文字数 870文字
ああ!愛とは何と力強いことか
このような力にあらがえる術があろうか?
武器を持ち千度の勝利を収めた
偉大な英雄でさえも
シーリアの明るい魅力の前に跪き
その目の力で殺されることをおそれる
僕が毎晩夜11時のチャントに参加し、三か月立ち落ち着いた頃、土曜日の練習日の夜9時に、指揮者の中村さんがそっと僕のトライアングルを取り上げて、穏やかに言った。
「聡 、君も歌ってみない?
潮見もだいぶ歌唱に慣れた。君だってきっとできる」
反論する間もなく、中村さんは、上記の歌を歌った。その声は、普通の高い男声であるテノールではなく、カウンターテナーと言う、女声のアルトくらいの高い声だった。英国の演奏家が歌うのを聞いて、そのCDのライナーノーツで説明を読んだので知っていた。
いつものように、夜、大きな階段の下に合唱団のメンバーは立っていて、その中には恋人の潮見さんもいた。潮見さんはテノールだ。
中村さんが手を上げて指揮を取り、同じ音楽がテノール、バリトン、バスの高さで揃って演奏され始めた。
それは例えて言えば、合唱団のみんなが中村さんの指揮で大きななわとびを始め、指揮者とメンバーは僕の方を見て、そのなわとびに入れと促していた。
1つの節が二、三回演奏され、音が低くなったところで、みんなのところまで行ってみた。次の同じ節になるまで中村さんは少し時間を取ってくれ、入りでさっと手を上げた。
で、中村さんが歌った同じ高さで声を出してみた。
中村さんの声は少し暗く、それでいて強くて明るかった。聞いた通りを真似してみた。
みんなの声と自分の声が混じり、建物がそれを優しく包んで、同じ節が繰り返される度に、少しずつ勇気を出して、声を大きくしてみた。すると、目には見えない手が、合唱団のみんなと、僕の上に置かれ、それによって、音楽がもっと高いところまで引き上げられた。
中村さんが手を下ろしたとき、もう夜中の12時になっており、僕たちはそれまで少しも中断せずに演奏を続けていた。
指揮者の中村さんは僕にウインクし、他のメンバーも微笑んでいた。とりわけ潮見さんは嬉しそうな顔で僕を見ていた。
このような力にあらがえる術があろうか?
武器を持ち千度の勝利を収めた
偉大な英雄でさえも
シーリアの明るい魅力の前に跪き
その目の力で殺されることをおそれる
僕が毎晩夜11時のチャントに参加し、三か月立ち落ち着いた頃、土曜日の練習日の夜9時に、指揮者の中村さんがそっと僕のトライアングルを取り上げて、穏やかに言った。
「
潮見もだいぶ歌唱に慣れた。君だってきっとできる」
反論する間もなく、中村さんは、上記の歌を歌った。その声は、普通の高い男声であるテノールではなく、カウンターテナーと言う、女声のアルトくらいの高い声だった。英国の演奏家が歌うのを聞いて、そのCDのライナーノーツで説明を読んだので知っていた。
いつものように、夜、大きな階段の下に合唱団のメンバーは立っていて、その中には恋人の潮見さんもいた。潮見さんはテノールだ。
中村さんが手を上げて指揮を取り、同じ音楽がテノール、バリトン、バスの高さで揃って演奏され始めた。
それは例えて言えば、合唱団のみんなが中村さんの指揮で大きななわとびを始め、指揮者とメンバーは僕の方を見て、そのなわとびに入れと促していた。
1つの節が二、三回演奏され、音が低くなったところで、みんなのところまで行ってみた。次の同じ節になるまで中村さんは少し時間を取ってくれ、入りでさっと手を上げた。
で、中村さんが歌った同じ高さで声を出してみた。
中村さんの声は少し暗く、それでいて強くて明るかった。聞いた通りを真似してみた。
みんなの声と自分の声が混じり、建物がそれを優しく包んで、同じ節が繰り返される度に、少しずつ勇気を出して、声を大きくしてみた。すると、目には見えない手が、合唱団のみんなと、僕の上に置かれ、それによって、音楽がもっと高いところまで引き上げられた。
中村さんが手を下ろしたとき、もう夜中の12時になっており、僕たちはそれまで少しも中断せずに演奏を続けていた。
指揮者の中村さんは僕にウインクし、他のメンバーも微笑んでいた。とりわけ潮見さんは嬉しそうな顔で僕を見ていた。