19。新しい命に
文字数 1,551文字
えっとー……
だだっ広い空間にポツンと置かれている瑠歌 。
妊婦に対応する気はないようね…。
トイレに行きたくて、校長室を出た。1階の児童トイレは古かった記憶があったから、来賓等、大人が使用するトイレを探した。確か、職員室近くの…応接室側にあった気がする。大人たちだけ使いやすい環境にしちゃって……。考え方の相違なのかしらね。学校って子どもたちのための教育の場なんじゃないの?じゃあ、環境も考えなさいよね。
ふつふつとする感情を抱えながら、応接室へと続く廊下を歩いていた。そうすると、フワッと右側からなにかが走り抜けて行った感じがあった。その
気づいたらこの有り様……
座っている場所は、柔らかな絨毯?敷物?の上で、意外に冷えを感じない。
「床暖房?……なわけないか」
ポツリと呟いて、ごろんと横になった。仰向けは、もう苦しいので、横を向く。
はあ…、座るのもいいけど、寝転びたかったのよねー。すごく癒されるわ……。
私の妊娠生活は、何だかバタついたものだった。高校卒業後、都市部にある専門学校へ入学した。高校から付き合いだした彼は、クラスの人気者で、お調子者だけど空気が読めるそんな彼に心惹かれた。映画館へのデートも、隠れてした学園祭でのキスも、学生時代の楽しい思い出だ。こんなホワホワした感じがずっと続くと思ってしまっていた自分が情けない……。現実に生きていく準備を怠っていた。見ないようにしていた。
そんな私とは反対に、ちゃんと現実を見ようとしていた彼。肥沃な土地でなくても農業を確立できないのか、そんなこと言ってたと思う。彼の家は農家で、決して大きくはないが米農家であった。俺んちの新米はウマイって、満面の笑顔で言う彼は可愛かった。時代は環境を変える。作っている場所は変わらないし、やることも変わらないのに、周囲は驚くほど変わっていった。食文化の変化、担い手不足、苦労が多い割には現金収入が見合わない現実に、あまり増えない作り手。彼はそれでも意欲を燃やして、農業系大学を出て、実家に貢献すると胸を張った。
私にはよく分からない理屈。効率の悪いこと言ってる、ってどっかで思ってた。
でも、キラキラしてる彼が好きだったんだよね…。私も矛盾してる……。
卒業すると、活動母体が変わっちゃったから、どんどん過ごす時間が少なくなって。すれ違うとケンカも増えて、もう別れるのかなーなんて思っていた。最後に一緒に過ごしたのは、この子が私のお腹にきた時。それからは、まったく連絡もなくて、相談もできなくて……。実習や研究で忙しいと言って、会えなかったのを無理に時間を作ってもらった。だから、顔を会わせると悪いなって気持ちも出てきて、優しくなかった私。つい嫌なことを言ってしまう。ほんとに嫌な女。困らせて、振り回して…。
つくん……
「……あ」
お腹が動いた。
動いた……う…動いたわ……。
「す、すごい……」
お腹に手を当ててみる。
「はは…、ほんとにいるのね……」
つ…つくん…
添えた手に振動が来る。
「わあ……お話ししてるの?」
思わず語りかけてしまう。さっきまでの暗い気持ちが嘘みたいにひいていく。
目を閉じて、胎動に集中する。手から伝わってくる、私と違う鼓動。私の中にある別の命。
その現実は急に襲ってくる。ちょっと怖い…、ちょっと不思議…、こんな半人前の私がママって…。やっぱり変な感覚。
つく…ん
「…変なの……何だか…励まされてるみたいだ……」
涙が頬をつたう。
温かい涙が、溢れたとたんに冷たくひやされてく。あとからあとから溢れてきて……。
「どうして泣いてるんだろう……」
つくん
「ふふふ……君は怖くないの?」
お腹をぎゅっと抱えて丸くなる。
ごめんね、私はこんなに弱い。
だだっ広い空間にポツンと置かれている
妊婦に対応する気はないようね…。
トイレに行きたくて、校長室を出た。1階の児童トイレは古かった記憶があったから、来賓等、大人が使用するトイレを探した。確か、職員室近くの…応接室側にあった気がする。大人たちだけ使いやすい環境にしちゃって……。考え方の相違なのかしらね。学校って子どもたちのための教育の場なんじゃないの?じゃあ、環境も考えなさいよね。
ふつふつとする感情を抱えながら、応接室へと続く廊下を歩いていた。そうすると、フワッと右側からなにかが走り抜けて行った感じがあった。その
モノ
を見ようと視線を移した…………つもりだった。気づいたらこの有り様……
座っている場所は、柔らかな絨毯?敷物?の上で、意外に冷えを感じない。
「床暖房?……なわけないか」
ポツリと呟いて、ごろんと横になった。仰向けは、もう苦しいので、横を向く。
はあ…、座るのもいいけど、寝転びたかったのよねー。すごく癒されるわ……。
私の妊娠生活は、何だかバタついたものだった。高校卒業後、都市部にある専門学校へ入学した。高校から付き合いだした彼は、クラスの人気者で、お調子者だけど空気が読めるそんな彼に心惹かれた。映画館へのデートも、隠れてした学園祭でのキスも、学生時代の楽しい思い出だ。こんなホワホワした感じがずっと続くと思ってしまっていた自分が情けない……。現実に生きていく準備を怠っていた。見ないようにしていた。
そんな私とは反対に、ちゃんと現実を見ようとしていた彼。肥沃な土地でなくても農業を確立できないのか、そんなこと言ってたと思う。彼の家は農家で、決して大きくはないが米農家であった。俺んちの新米はウマイって、満面の笑顔で言う彼は可愛かった。時代は環境を変える。作っている場所は変わらないし、やることも変わらないのに、周囲は驚くほど変わっていった。食文化の変化、担い手不足、苦労が多い割には現金収入が見合わない現実に、あまり増えない作り手。彼はそれでも意欲を燃やして、農業系大学を出て、実家に貢献すると胸を張った。
私にはよく分からない理屈。効率の悪いこと言ってる、ってどっかで思ってた。
でも、キラキラしてる彼が好きだったんだよね…。私も矛盾してる……。
卒業すると、活動母体が変わっちゃったから、どんどん過ごす時間が少なくなって。すれ違うとケンカも増えて、もう別れるのかなーなんて思っていた。最後に一緒に過ごしたのは、この子が私のお腹にきた時。それからは、まったく連絡もなくて、相談もできなくて……。実習や研究で忙しいと言って、会えなかったのを無理に時間を作ってもらった。だから、顔を会わせると悪いなって気持ちも出てきて、優しくなかった私。つい嫌なことを言ってしまう。ほんとに嫌な女。困らせて、振り回して…。
つくん……
「……あ」
お腹が動いた。
動いた……う…動いたわ……。
「す、すごい……」
お腹に手を当ててみる。
「はは…、ほんとにいるのね……」
つ…つくん…
添えた手に振動が来る。
「わあ……お話ししてるの?」
思わず語りかけてしまう。さっきまでの暗い気持ちが嘘みたいにひいていく。
目を閉じて、胎動に集中する。手から伝わってくる、私と違う鼓動。私の中にある別の命。
その現実は急に襲ってくる。ちょっと怖い…、ちょっと不思議…、こんな半人前の私がママって…。やっぱり変な感覚。
つく…ん
「…変なの……何だか…励まされてるみたいだ……」
涙が頬をつたう。
温かい涙が、溢れたとたんに冷たくひやされてく。あとからあとから溢れてきて……。
「どうして泣いてるんだろう……」
つくん
「ふふふ……君は怖くないの?」
お腹をぎゅっと抱えて丸くなる。
ごめんね、私はこんなに弱い。
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