14。耀《ヨウ》

文字数 1,445文字

萌慧(モエ)、これって……正解の動きか……?」
俺は今、体育館で、小学校時代の同級生と、壊れたはずの木造校舎で、再会して今に至っている。
出会って、懐かしさも去ることながら、驚きの方が強く。名前や年や近況の確認をして……で……
「何でスリーポイントシュートしてんだっけ?」
2、3回ボールをついて、バスケットゴールにシュートする。ボールはリングに吸い込まれるようにしゅっと音を立てて入った。
「わあ、ちゃんと形になってる…」
「当たり前だろ。俺は中高とバスケ部だ」
「あれ?高校でもやったの?バスケもうしないって言ってたのに?」
「……そうだったっけ?」
萌慧のやつよく覚えてるな。当時、ちょっとすさんでたんだよな…俺…
転がったバスケットボールを拾って。クルクルっと回す。
なんもかんも嫌になってたんだよな…。
「はっ…、今と変わんねえじゃん…」
「え?なんか言った?」
「……いや」
ダムダムとボールの跳ねる音が体育館に響く。聞こえるはずのないチームメイトの声や、汗の染み込んだ練習着の匂いがする。

 耀(ヨウ)!ナイッシュー!

ハッとして振り返る。いるはずのない従兄弟たちの陰影を探している。
「ええ?!耀さんってバスケ部なんすか~?ずるいよ、そういうことは先に言ってくれないと…」
聞きなれない声に我に返る。
視線の先には頬を膨らませた(カイ)くんがいた。
……ああー……そうだ。ここで出会って、話してたら、萌慧と一緒にいた快くんがぶーたれて、勝負挑まれて、今に至るんだった。にしても……
「あのさ、言い出しっぺはお前だろ?だいたい何の勝負なんだよ。で、お前は萌慧のなに?そんで、早くシュートしろって。これで入んなきゃ俺の勝ちだから」
「そうよ、快。じたばたしないの。勝った方が私と一緒に行動するんでしょ?あんたが言ったのよ」
「ぐ……確かに、僕が言いました……」
ボールを抱えて佇む彼は、何だかいろんなことを思い出させる。場所がここであるからなのだろうか……。

【回想】
「お前らさ、兄弟なのに似てねえのな」
「「「はあ?」」」
アップしていた俺たちの方に向かって、練習試合に来ていた隣町の中学生は、驚くほどハッキリと間違った情報を口にした。
俺、彰生(アキオ)透一郎(トウイチロウ)の3人は、またかよという思いで相手を見つめる。
「そのリサーチ誰がしたの?」
と透一郎。
「同級生ですけど?じゃあ、三つ子ってこと?似てる?」
と彰生。
「で、その情報ってこの試合に関係あるの?」
と俺。
「そ、そういう訳じゃねえけど……」
言い淀んでいる相手チームを見て、ため息をつきながら練習に戻る。



俺たちは確かに従兄弟同士で、近い関係で、昔から兄弟のように育ってきた。そのことを気にしたことなんかなかったが、中学生になって、状況が少し変わった。小学校時代の同級生ばかりで構成されるわけでなく、近隣の小学校3校が集まってくるこの中学校。ひとつひとつは少人数の集まりのため、3校が一緒になったところで、クラス数は2クラスになるぐらいだった。しかし、保育から一緒だった奴ら以外に同年代の者たちと関わることが少なかった俺たちにとっては、微妙な変化についていけないこともあった。相手に悪気はないって分かっていても、イラつきがおさまらない。
ここのところ、俺にマウントとってくる同級生が増えた気がする。何も思わず入ったバスケ部。3人で同じ部活動だったからなのか?何でちゃちゃが入り始めたのか…。
今考えても、よく分からない……。
俺はそんな変化についていけてなかった。これまで仲良かったみんなが敵のようにおもえて、息苦しかった。
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