1。心残り
文字数 1,864文字
「一静 ~。……やだ、また浸ってる」
大学の友だちは、とても打ち解けやすく、楽しかった。けれど、時に私には厳しすぎた。
「そんなんじゃないんだけどね」
講義ノートを手渡す。
「いつもありがと。そうだ、今度、となり町の大学と合コンあるけど、行く?」
「行かない」
素っ気なく言う私に柚南 は口をとがらせた。
「やだもう~、たまには付き合いなさいって。一静だってモテるんだから。私、後輩から何度頼まれたことか」
「どうだっていいよ……」
私の言い方に柚南は顔を少ししかめた。
「敵作るような言い方、よくないよ」
「…そんなきつい言い方した?」
「教育的指導ものさ」
柚南、人差し指で私のおでこを軽くつく。
決して悪気があるわけではない、とわかっている柚南の態度が、この時の私にはキツかった。そんな感情が表に出ていたのかもしれない。柚南の口からため息が漏れた。
「どした、らしくないよ」
「……らしくない?」
「そうだよ~。あっ、ごめん、向こうで彼氏が呼んでるから、今度、話聞く。ね!」
そういうと、彼女はいそいそと教室を出ていった。
その後ろ姿を眺めるのも億劫で、私は机に突っ伏した。窓の外の風景に視線をもっていく。校庭でサッカーをしている。後輩かな?あれは…。そういえば、学校には校庭はあるが、遊具がある校庭って小学校だけかも。ジャングルジム、雲梯遊具、ブランコ、鉄棒、タイヤを半分埋めた跳び箱とか、木の間に大木を斜めに渡した橋とかもあった。今まで思い出すことなんてなかったのに……。
雲梯遊具の上に乗っかって降りられなくなって泣いたこと。砂場で幅跳びしたこと。逆上がりがひとりだけ出来なくて、放課後練習したこと。どうしてだろう?鮮明に思い出す。嫌だな……何だかすごく懐かしくて……
かなしいわ…
そう感じた瞬間、私は机の上に出していた教科書、ノート類をすべて片付け、席を立った。
「どういうこと…だろう……」
私の目には、小学校の古い校舎がいた。前回、ここに来たときには、確かに取り壊されて整地されていたのに、今、一静の目の前にはあの木造の校舎があった。
どう考えてもこれはおかしなことで、奇怪な出来事で、不気味に感じてもおかしくないのだけれど…、
この時、一静は何も感じなかった。感じたとすれば、そう、懐かしいとか、あったかいとか…なんと言うか…どちらかと言うと懐古的な感情だろうか。間違いなく平地と化していたのに、古ぼけてはいるが、凛と佇んでいる校舎がここにある。
壊されているとわかっていたのに、何で、もう一回見に行きたい、と思ったんだろう。そうして、どうしておまえは、
本来なら、この表現はおかしいし、こんな感情を抱く一静も変であるかもしれない。しかし、彼女の前にある
“君に会いに来たよ”
そんな言葉が聞こえそうな感じだ。
「こんなボロだったっけ……」
自然に笑みがこぼれる。ほっとしたような、肩の力が抜けたような……。
これって…再会ってことだよね。
再会
自分で選んだ言葉だけれど、あまりにしっくりときて、可笑しく思う。
うん、そうだ。再会だ。
心の中で勝手に納得した私の目の前が、何だかザザーっと歪む。
ん?
目を一度こすってみる。校舎を眺めている私と、それの間に子どもが走っていく姿が見えた気がした。もう一度、目をこする。じっと目を凝らしてみる。やっぱり、子どもがいる。ひとりじゃなくて、2人?いや4?違う6人もいる。え、子どもとかいたっけ?というか、人の気配もしなかったのに、どっから来たんだろう?
更に、違和感と言えば、こんな状況、怪談でしかないんだけれど、怖いとか異様という感じより、親しみというか親近感と言いましょうか……つまりは、楽しみでワクワクしている自分がいたのだ。
不意に子どもたちの1人と視線がかち合う。ああ、ワクワクするはずだ……。この子は小学生のときの私だ。
“どう?一緒に行く?”
言葉がこの空間で響いてはいないことはわかった。
「もちろん、行くわ」
私は天性の怖がりである。雷が鳴ることはもちろん、自分が触れていないものが“コト”なんて音をたてると同じ空間にはいられない。なのに…この展開が決して現実ではないってわかっているのに、怖くはない。
私、感覚がおかしくなった……?
そんな風に思ってもいるのに、私の心はなぜか晴れ晴れとしていて、何も疑わずその子たちの後をついていった。
大学の友だちは、とても打ち解けやすく、楽しかった。けれど、時に私には厳しすぎた。
「そんなんじゃないんだけどね」
講義ノートを手渡す。
「いつもありがと。そうだ、今度、となり町の大学と合コンあるけど、行く?」
「行かない」
素っ気なく言う私に
「やだもう~、たまには付き合いなさいって。一静だってモテるんだから。私、後輩から何度頼まれたことか」
「どうだっていいよ……」
私の言い方に柚南は顔を少ししかめた。
「敵作るような言い方、よくないよ」
「…そんなきつい言い方した?」
「教育的指導ものさ」
柚南、人差し指で私のおでこを軽くつく。
決して悪気があるわけではない、とわかっている柚南の態度が、この時の私にはキツかった。そんな感情が表に出ていたのかもしれない。柚南の口からため息が漏れた。
「どした、らしくないよ」
「……らしくない?」
「そうだよ~。あっ、ごめん、向こうで彼氏が呼んでるから、今度、話聞く。ね!」
そういうと、彼女はいそいそと教室を出ていった。
その後ろ姿を眺めるのも億劫で、私は机に突っ伏した。窓の外の風景に視線をもっていく。校庭でサッカーをしている。後輩かな?あれは…。そういえば、学校には校庭はあるが、遊具がある校庭って小学校だけかも。ジャングルジム、雲梯遊具、ブランコ、鉄棒、タイヤを半分埋めた跳び箱とか、木の間に大木を斜めに渡した橋とかもあった。今まで思い出すことなんてなかったのに……。
雲梯遊具の上に乗っかって降りられなくなって泣いたこと。砂場で幅跳びしたこと。逆上がりがひとりだけ出来なくて、放課後練習したこと。どうしてだろう?鮮明に思い出す。嫌だな……何だかすごく懐かしくて……
かなしいわ…
そう感じた瞬間、私は机の上に出していた教科書、ノート類をすべて片付け、席を立った。
「どういうこと…だろう……」
私の目には、小学校の古い校舎がいた。前回、ここに来たときには、確かに取り壊されて整地されていたのに、今、一静の目の前にはあの木造の校舎があった。
どう考えてもこれはおかしなことで、奇怪な出来事で、不気味に感じてもおかしくないのだけれど…、
この時、一静は何も感じなかった。感じたとすれば、そう、懐かしいとか、あったかいとか…なんと言うか…どちらかと言うと懐古的な感情だろうか。間違いなく平地と化していたのに、古ぼけてはいるが、凛と佇んでいる校舎がここにある。
壊されているとわかっていたのに、何で、もう一回見に行きたい、と思ったんだろう。そうして、どうしておまえは、
ここにある
んだ?まさか、こうして、私に校舎の方から会いに来てくれるなんて、思ってもみなかった。本来なら、この表現はおかしいし、こんな感情を抱く一静も変であるかもしれない。しかし、彼女の前にある
それ
は、まさしくそんな風に存在していたのだ。“君に会いに来たよ”
そんな言葉が聞こえそうな感じだ。
「こんなボロだったっけ……」
自然に笑みがこぼれる。ほっとしたような、肩の力が抜けたような……。
これって…再会ってことだよね。
再会
自分で選んだ言葉だけれど、あまりにしっくりときて、可笑しく思う。
うん、そうだ。再会だ。
心の中で勝手に納得した私の目の前が、何だかザザーっと歪む。
ん?
目を一度こすってみる。校舎を眺めている私と、それの間に子どもが走っていく姿が見えた気がした。もう一度、目をこする。じっと目を凝らしてみる。やっぱり、子どもがいる。ひとりじゃなくて、2人?いや4?違う6人もいる。え、子どもとかいたっけ?というか、人の気配もしなかったのに、どっから来たんだろう?
更に、違和感と言えば、こんな状況、怪談でしかないんだけれど、怖いとか異様という感じより、親しみというか親近感と言いましょうか……つまりは、楽しみでワクワクしている自分がいたのだ。
不意に子どもたちの1人と視線がかち合う。ああ、ワクワクするはずだ……。この子は小学生のときの私だ。
“どう?一緒に行く?”
言葉がこの空間で響いてはいないことはわかった。
「もちろん、行くわ」
私は天性の怖がりである。雷が鳴ることはもちろん、自分が触れていないものが“コト”なんて音をたてると同じ空間にはいられない。なのに…この展開が決して現実ではないってわかっているのに、怖くはない。
私、感覚がおかしくなった……?
そんな風に思ってもいるのに、私の心はなぜか晴れ晴れとしていて、何も疑わずその子たちの後をついていった。
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