7。休憩

文字数 1,210文字

「どっちがいい?おにぎり?パン?」
「…………パン」
「私の好みだから、クリーム系だけど」
 彼女は、紫色のリュックからおにぎり2個とパンを2個出した。
 玄関から出られず、あれから児童玄関や渡り廊下へ出られる戸口等々、思い付く出入り口へ行ってみたが、どこも扉に切れ目はなく、開かないことが確認できただけだった。少し焦り始めた俺に、彼女は「ちょっとお腹空いた……」と言ったのだ。
「……おまえ、1人で食べるつもりだったんだろ?」
「え?そうだよ。気にしないで」

 そういうことではないのだけど…。

 1年生教室に入って、腰を落ち着けた。渡されたクリームパンを手に、渡してくれた彼女を見る。
 
 面影が…あるか……。

 幼いときの彼女は、とても活発で、やたらよく動いていたように思う。長かった髪はただひとつに束ね、ショートパンツがよく似合っていた。大人になった一静(イチセ)は、なんだか落ち着いていて、最初は全く分からなかった。スキニーのジーンズに、パステルのTシャツ、軽くウェーブのかかった髪は、光に透けるとオレンジがかった茶色に見える。化粧もうっすらしていて、なんだか意識すると照れる。
 なぜこんなところで再会したのか…。髪をかき上げ、記憶を辿ろうと脳を刺激してみる。
 だいたい、どこから俺はここに入ったのだろうか?少し前に、校舎が取り壊されていたのは見たんだ。なのに、俺はまた、どうして、校舎のあったこの土地に来たのだろうか……?俺が自分から来たのかな?ここにいるのだから、来たのだろうけど、どうして?何をしに来たんだ?
「彰生?」
呼ばれてハッとする。
「あ、ごめん……」
「大丈夫?」
「悪い…。何かちょっと混乱してて…」
「うん。私も」
 一静はニコッと笑った。
「おま…この状況でよく笑えんな」
「まあ、とにかく食べよ。空腹って良くない」
「一静」
「何も分かんないけど、久しぶりに会ったんだもん。それは嬉しい」
「まあ……それは…そうだけど…」
ヒョコっと顔を上げる一静。
「え…な、なに…」
ぽくっと微笑む彼女に、ちょっとドキッとする。
「同意って…嬉しいねー」
「あのなー……」
 間違いない。こいつは一静だ。姿は大人でも中身はそう変わらない。一静は同じ思いであることが分かると喜んだ。まあ、大抵の人間はそうなのだが、彼女もそれに漏れずと言えば、そうなのだけれど…。あのぽくっと微笑んだときの目のふにゃっと具合は、一静の

だ。でもって……
「おまえって、みんながヤバイってパニクったときに冷静なんだよな。変わってない」
「え、それって……成長がないってこと?」
「え」
「わあ……久々に会ってディスられてるわぁ……」
「はあ?誉めてんだろ?」
「え?そうなの?じゃあ…彰生はかわってないねって言われたい人?」

 え…………

 思わず固まる。
 なんだか…、ちょっと痛いところをつかれた気がする…。俺の脳が急に活性化される。そう……確かに俺にとって変わらないって言葉はキーワードだ…。

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