16。合流①

文字数 1,453文字


 保健室を出て、掲示板がある場所に向かう。何だか頭がはっきりしないせいか、目の前の道が、夢の中で歩いているかのように輪郭がぼやける。
右手でこめかみを押さえてみる。ちゃんと圧迫感は感じる。目が疲れてるのかな…。
一静(イチセ)、やっぱしんどいのか?」
「んー、しんどいっていうか…目が変っていうか…」
「げっ、お前、打ちどころが悪かったとかじゃないよな?」
「やめてよ~、後頭部は打ってないって。痛くないし……」
「じゃあ、いいけどさ……」
来賓入り口に到着し、その向こう側の掲示板へと向かう。
「確か…ここにあった彰生(アキオ)の作文に……」

 え…………?

そこには作文ではなく、1年生の頃、図画の時間に描いた飼育小屋にいた孔雀の絵があった。
「わ…なっつ……」
彰生は足早に絵に近づき、まじまじと見入っていた。
「この時はクレヨンで描いてたよな~。わあ、これ見れるとは思わなかったわ。ちゃんとみんなのあるじゃん」
私は混乱していた。
確かにここには彰生の作文が掲示されていたのに。私、読んだよね?ここで。懐かしがって読んで、で、……

 で……?

「一静…?どうした?ほら、お前の絵もあるぞ」
「彰生」
「ん?」
「私、彰生に会う前にここにいたの」
「俺に会う前って……倒れてたよな?一静」
そうなんだよね……。私、何で倒れてたんだろ?
「……倒れてたのは何でか分かんないけど、ここで見たものは覚えてるの。この絵じゃないの」
「え?これじゃないの?」
驚いて振り返った彰生。
「でも、今、目の前にあるのはこの絵だよ?誰かがかえたってのか?」
そんなわけはない。ここに他の気配はないのだし……

 ダダダだだ…………っ……

突如として前方から人が走ってくる音がした。
「あ、彰生っ!」
「何だ?! 誰かいるのか?!
彰生、急いで私の方へ寄ってくる。身を寄せて音のする方を見る。それほど長い廊下ではないはずなのに、音はするが姿が見えない。
「何だ…?音は近いのに見えないぞ…?」
間違いなく前から聞こえていると感じる廊下を走る音は、視覚で確認できるものが無いため、どちらの情報も信じられない。
「彰生…ここから離れた方が良くない?」
「……そう…だな。とにかく近くの教室にでも避難して……」
彰生が前方から視線を外した時、私の目に人の姿が見えた。
「彰生!前っ!」
「え?」
彼が振り返る頃には、人の塊が突っ込んできた。
「どいてーーー!」

 ん?この女の人の声って……

声に気がとられていると、フワッと体が浮き、頭からくるまれるように抱きすくめられた。衝撃はあったものの、柔らかいクッションに覆われているような、心地よい感覚。走る音も鳴り止み、再び静寂がおとずれる。
「おい、大丈夫か?」
すぐ近くから彰生の声が降ってくる。
「……うん。彰生は?」
「平気。立てる?」
「うん……」
彰生の腕の中から出ると、立ち上がる。同じく立ち上がろうとしていた男女3人。
「イテテテ……人がいるなんて……」
「廊下は走っちゃ行けないのよ!(カイ)っ!」
「って…萌慧(モエ)さんだって“走れー!”って…」
「しょうがないでしょ!体育館が消えてったんだから!さすがにこわいじゃない」
「ああもう!萌慧どけって…重い…」
「なっ!耀(ヨウ)っ!あんた失礼ね!そんなに重くないわよ…」
「そうですよ!なんて羨ましいっ!」

カオスだわ……

何だか情報が溢れんばかりだけれど、これだけは分かる。
「萌慧」
私の声に反応する女性。顔が上がり、視線がかち合う。みるみる相手の目に涙が溢れてくる。驚いたのは私だ。
「ちょっ…萌慧…?」
「い、い、いたーーー!」
彼女の大きな声に、校舎が震えた。
 
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