15。振り返る、立ち止まる

文字数 1,646文字

「……黙って見つめても引っ込まないわよ」
「そんなこと知ってるよ」
まさか、こんなところで小学校の頃の同級生に会うとはね。
瑠歌(ルカ)は、ポッコリと出たお腹をさする。自分の体が自分のモノではない感覚…。初めはなんとも思わなかった体の変化に戸惑った。ただ体型が変わるだけではない。意味なく気持ち悪くなる、匂いに反応する、涙が出る、ビックリするくらいメロンパンが食べたい……。
「はあ…もう…言いたいことあるんなら言いなさいよ」
久しぶりに会った透一郎(トウイチロウ)は、年数が経っていても彼だと分かった。小学生の頃から言えば、身長も伸び、体格も良くなり、身に付けているものはすっかりオシャレな大学生だったが、特徴的な右目したのほくろに切れ長の目は彼のモノだった。
「4ヶ月?」
「6ヶ月よ。いいとこついてくるわね」
「適当だな…。2ヶ月違ったら違うだろうが」
「そうね、経験済みなの?」
「見た目も中身も変わってないな。安心するわ」
透一郎はニコッと笑うと、目の前のソファにドスンと座った。
「もっと静かに座んなさいよ」
「あー…わりぃ、ちょっと気が抜けた」
頭をかきながら、苦笑する。

 あんたも変わってないじゃん…

 思わず瑠歌も表情が緩む。
 透一郎、耀(ヨウ)彰生(アキオ)はこの小学校でやんちゃ組だった。いたずらも、勉強も、スポーツも、前後の学年を引っ張っていくエネルギーのある3人組だった。当初、見た目が違うことがなんだか周りとの溝を生んで以来、誰に何を言われたって跳ね返そうと、周りは

程度に思うことにしていた私。期待しなきゃショックも受けないと、落とし込んでいた。見た目で勝手な

を作り上げた周囲のものたちは、思っていたのとは違う私の態度や行動、言葉なんかにこれも勝手に落胆して、勝手に離れていった。大人になった今なら、あしらうことも出来たが、幼い私は溺れそうだった。負けたくないという負けん気の強さが後押しして、相手のアラを探して公言する、という行動に出ることで、自らを守っていた。それが、良いことなのか悪いことなのかという倫理的な考えより、この変えようのない容姿と一生向き合っていく私にとって、これが出来ることだった、それだけの事だった。
 ある日、思いっきりケンカした同性が現れた。裏でコソコソ言うしかない者たちと違って、真っ向から食って掛かってきた。特に気に入ったとか、ありがたかったとか、そういうんじゃなくて、ただ、話が出来る人が出来たっていう感覚だった。
「そー言えばさ、瑠歌って一静(イチセ)萌慧(モエ)と連絡とってる?」
「……前はね、取ったことあったけど、最近ないかな」
「……ふーん……」
 私は、中学校2年で転校した。親の転勤がその理由だ。変わった先では、一般的な学校生活を送った。二人からの手紙は良く届いていた。高校に入った頃から、私の方が何だか連絡しなくなった。
 瑠歌、お腹をソッと触って、ほうっとため息をつく。
 たぶん、この子の父親と出会った頃だな……。それは、楽しくもあり、辛くもあったとき…。
「瑠歌」
「ん?」
「おまえさあ、ここに来た時のこと、覚えてる?」
「……んー……、気付いたらここにいた感じ?」
「ああ、やっぱそう?」
「え?透一郎も?」
「うーん…、奇っ怪だよな~。ここって取り壊されてたの知ってる?」
「ああ…知ってる」
 実は、タイミング良く来てたんだよね…取り壊しの日に。取り壊されることは知らなくて、ただ、妊娠が分かって、さてはてどうしたらいいかが分からなくて、そうしたらここに来てた。もう忘れていた時代の思い出にすがるなんて…そんなに私は参っていたのかな。そもそも形ないものにすがろうとしてたのかしら?“友だち”だと思った2人にすがるのではなく……。
 
 私は、なんて弱虫なんだろうか……。

「今のこの状況に怯えてないのって、どうして?」
「どうしてだろう……」
 気がついた時にはここにいて、しばらくしたら、透一郎が来た。確かに奇っ怪ではあるけれど、嫌ではない。むしろ、今までいた世界がちょっとしんどかったから、今は、息ができているかも……。


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