10。違和感
文字数 1,474文字
「早く。なんでそんなにゆっくりなのよ」
「おまえは、なんでそんなに元気なんだよ…」
一静 と彰生 はギシギシと音のなる廊下を、2階へ続く階段に向かって歩いていた。
1年教室で小腹を満たした2人は、当時のことを思い出しながら談笑をしていた。外に出ることが出来ないという事実に、混乱はしたものの、腹が満たされると少し落ち着いた。不思議なことだらけだが、もしかしたら、何か解決の糸口がどこかに転がっているかもしれない。そんな藁をもつかむような、漠然とした一静の提案に、彰生が乗っかった。
ここでの思い出を話さない?
それは、この状況に合っているような、合っていないような、スッキリしない提案。校舎の中で話すんだから、ちょっとエモーショナルに考えるなら思い出だろうけど、どうやってここに来たのか分からないのだから、思い出話しなんかしてる場合じゃないのは…その通りで……。
「そう言えば…、萌慧っておまえと仲良かったよな?」
「うん。今もたまに連絡とってるよ」
「マジか…。知らんかった」
「彰生は?仲良しいたずら3人組」
「はあ?透 と耀 のことか?」
「そう!透と耀!わあ、懐かしい…」
「……ああ、親戚だからな。年に1度は必ず会うわな……」
「そうなんだ…。透と耀は元気なんだね」
「元気だよ。懐かしい?」
懐かしい……?
そうかも…小さい頃のみんなの顔しか浮かばないけど、それが大きくなって……
目の前には彰生がいる。こんな風に大人になったみんなの顔を見たいかも。
「そうだね…会ったら、そんな風に思えるかもね」
私は、今、何に引っ掛かったのだろう?随分会っていないんだから、話をしたら懐かしく思うのは、きっと、普通のことなんだけど。
「…私、ここにどうやって来たかは曖昧だけど、なんで来たかは、覚えてる気がする」
「何で来たか……?」
「うん……」
私は、小さな机に頬をつけて、目をつぶった。
「おい……だい、丈夫か?」
私は、悲しくて、もう一回、校舎のあったここに来たんだ。寂しくて、さみしくて…。でも、どうしてそんなにさみしかったのだろう…?
ふっと、校舎の2階へ続く階段が浮かぶ。
「ああ!」
「うわっ!」
突然、立ち上がった私に、驚いて椅子から落ちる彰生。
「何だよ、急に……」
「私、今なら2階へ行ける……」
「何で2階何だよ……」
彰生がつぶやく。
「えー?だって、3年生まで行っちゃいけなかったじゃない?」
「ああ……、まあそうだけど、4年生で教室が2階になったから……」
私の足が止まる。後ろから来ていた彰生の足も止まる。
「おい、急に止まるなよ」
「そうだよね、みんな2階へ行ったことあるんだものね…」
「まあ、そうだな…。え、あ、そっか、一静はいなかったよな、4年の時。1年の終わり辺りで引っ越したんだっけ」
私は、彰生の方へ向き直ると、溜め息をつく。
「そう、私、結局行ってないのよ」
「あれ~?何かおまえと2階にいた記憶があるような……ないような……」
「誰と間違えてんの?萌慧 ?瑠夏 ?」
「うわっ、なつっ…!」
「もう…。私は、1年で、かわったんだか…ら…」
脳内でバチッという大きな破裂音がした。
彰生の名で掲示してあった作文が思い出される。そこに書かれていた学年は2年だった。おかしいな…?私はもうその頃、ここにはいなかったのに…、私が記憶していた上級生とのトラブルが書かれていた、よね…? え……?
あ……れ……?
「おい!一静!」
目の前にいたはずの彰生がグーっと天井に向かって上ってくぞ?何だこれは…?
ひんやりとした木造校舎の廊下に倒れこんだ時には、私の意識はそこになかった。
「おまえは、なんでそんなに元気なんだよ…」
1年教室で小腹を満たした2人は、当時のことを思い出しながら談笑をしていた。外に出ることが出来ないという事実に、混乱はしたものの、腹が満たされると少し落ち着いた。不思議なことだらけだが、もしかしたら、何か解決の糸口がどこかに転がっているかもしれない。そんな藁をもつかむような、漠然とした一静の提案に、彰生が乗っかった。
ここでの思い出を話さない?
それは、この状況に合っているような、合っていないような、スッキリしない提案。校舎の中で話すんだから、ちょっとエモーショナルに考えるなら思い出だろうけど、どうやってここに来たのか分からないのだから、思い出話しなんかしてる場合じゃないのは…その通りで……。
「そう言えば…、萌慧っておまえと仲良かったよな?」
「うん。今もたまに連絡とってるよ」
「マジか…。知らんかった」
「彰生は?仲良しいたずら3人組」
「はあ?
「そう!透と耀!わあ、懐かしい…」
「……ああ、親戚だからな。年に1度は必ず会うわな……」
「そうなんだ…。透と耀は元気なんだね」
「元気だよ。懐かしい?」
懐かしい……?
そうかも…小さい頃のみんなの顔しか浮かばないけど、それが大きくなって……
目の前には彰生がいる。こんな風に大人になったみんなの顔を見たいかも。
「そうだね…会ったら、そんな風に思えるかもね」
私は、今、何に引っ掛かったのだろう?随分会っていないんだから、話をしたら懐かしく思うのは、きっと、普通のことなんだけど。
「…私、ここにどうやって来たかは曖昧だけど、なんで来たかは、覚えてる気がする」
「何で来たか……?」
「うん……」
私は、小さな机に頬をつけて、目をつぶった。
「おい……だい、丈夫か?」
私は、悲しくて、もう一回、校舎のあったここに来たんだ。寂しくて、さみしくて…。でも、どうしてそんなにさみしかったのだろう…?
ふっと、校舎の2階へ続く階段が浮かぶ。
「ああ!」
「うわっ!」
突然、立ち上がった私に、驚いて椅子から落ちる彰生。
「何だよ、急に……」
「私、今なら2階へ行ける……」
「何で2階何だよ……」
彰生がつぶやく。
「えー?だって、3年生まで行っちゃいけなかったじゃない?」
「ああ……、まあそうだけど、4年生で教室が2階になったから……」
私の足が止まる。後ろから来ていた彰生の足も止まる。
「おい、急に止まるなよ」
「そうだよね、みんな2階へ行ったことあるんだものね…」
「まあ、そうだな…。え、あ、そっか、一静はいなかったよな、4年の時。1年の終わり辺りで引っ越したんだっけ」
私は、彰生の方へ向き直ると、溜め息をつく。
「そう、私、結局行ってないのよ」
「あれ~?何かおまえと2階にいた記憶があるような……ないような……」
「誰と間違えてんの?
「うわっ、なつっ…!」
「もう…。私は、1年で、かわったんだか…ら…」
脳内でバチッという大きな破裂音がした。
彰生の名で掲示してあった作文が思い出される。そこに書かれていた学年は2年だった。おかしいな…?私はもうその頃、ここにはいなかったのに…、私が記憶していた上級生とのトラブルが書かれていた、よね…? え……?
あ……れ……?
「おい!一静!」
目の前にいたはずの彰生がグーっと天井に向かって上ってくぞ?何だこれは…?
ひんやりとした木造校舎の廊下に倒れこんだ時には、私の意識はそこになかった。
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