第20話

文字数 1,237文字

 そう、これは想像だ、想像、想像の創造… こんなマンションは実在しない。かかる登場人物、〈私〉も〈あなた〉もない、夢、寝ている時の夢に等しく… ありふれた物語でない、起承転結、読みびとを喜ばし、サービス精神に満ち満ちる、素晴らしいストーリー仕立ての読み物でない。
 といって、読みびとを意識しないでもない、それは〈意識〉で、さしあたり〈私〉がそこに働いていそうだが、それは特に〈私〉と限定するものでもない。働く意識、それは意識の働きであって〈私〉の働きではない…
 夢を見よ! 夢に論理があるか? 秩序があるか? 支離滅裂でない夢はない… 想像なんだ、夢も! 寝ている間にだって想像、想像だ、起きていてそれを書いているだけだ〈私〉が。私? 私は想像に操られ… 想像の下僕、想像の従順な召使い、想像の物語を、想像がつくり、見せてくれる創造物をここに模写するだけ。
 501、502、503…
 あいつは二階にいたはずだが? ああ、あの〈自然餓死〉を望み、その通りに横たわっているあの若者か… 彼はこれを彼の、自分の運命、彼に授けられたまるごとの運命としている。彼だけに与えられた、彼だけの、彼固有の… と彼は思い込もうとしている?

 心細さげだ! どこか確信が持てないらしい。これが本当に私の運命だったのか? 彼は確信が持てない、本当に? 私がそう思い込もうとしているだけで、これを運命だとしているだけで… 本当は違うのではないか?
 この疑念が拭えないでいる… では別の運命とは? 違った運命とは? それも彼にはわからない… するとやっぱりこれが私の運命、これがそうなんだ、となる… だが腑に落ちない、ほんとうには腑に落ちてこない、何か欺瞞の匂い、何かごまかしている気がする…

 おい、なぐさめてやれよ、あいつを! 言霊連中、あいつがこいつに指図する、「どっちに行こうが、どっちが本当だろうが、どっちにしたってお前はそうなるのだ」と!
 お前はAかBかを選ぶ、CDE、DHC、ほかにもよく見れば、検討すれば、その余地があり… それでも結局お前はそうなる、今のようになる、今がすべて、運命は交錯しない、お前が想像で工作してるだけで、何を選んでもお前はそうなる、そうなるのだと!

 感情? 感情は一時、あとはそれを引きずる、感情、あの時の感情に拘泥し、〈あの時〉を思い出しているだけ! 感情はもう終わっているのだ、それをお前は引きずり出してくるだけだ、その後に及んで… 後生大事に、もう終わっているものを、わざわざ!

 戦争? あれも感情? 憎しみ、ニラミつけ、憎悪の嵐、物欲、支配欲、思い通りにならぬことから起こった感情はあったろう! が! それをいつまでも引きずろうとする意志、意思が!
 その意思、意志を、彼は彼自身とした、彼自身、彼そのものが意思、意志そのものであろうとして… あるとして!
 なかったものをあるとするのは人間の得意技だ… その逆も然り!
 どこまで行ったっけ? 504、505…
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