第12話

文字数 969文字

 人は正義の立場に立つとこの上なく残酷になる── それまで優しかった人も、ニコニコ老婆も好々爺も好青年も豊満婦人も包容力なぞシュッと引き締まりカマキリ面になる。鎌をもたげ、首をぐるぐる… 悪こそ正義の栄養、ちょうど腹をすかせてたんだ…
 ありがたいね、悪徳は! 正義を引き立てる超重要な名脇役、なくてはならぬ香辛料、永遠普遍の酸化防止剤、みんな大好き炭水化物…
 守りたいものがある。それを苦しめるは許さじ! 盾は愛、矛も愛、ちと心細いから常識、モラルも利用して波状攻撃仕掛けてく、愛するもののため! 何を惜しむことがあろうぞ? 誰もが納得、愛こそ正義、我こそ正義、光の戦士!

 正義は変化を厭う、かたくなな一物、うだつのあがらぬ大兵隊長、大切なのは手前の勃起だけ。おお我が昂揚、オーガズムを妨げるすべてのものに死を! と来たもんだ。
 我を歓びに導くもののみが愛の対象、その他は全て憎しみの対象、排除すべき敵!
 誰もが好戦家だ、みんなそうして大きくなった、脈々と受け継がれる不動の鉱脈。
 手前のミサイルを飛ばすことだけに熱中し、それ以外に関心なし!
 動物以下、犬畜生以下の人間が人間を指導する… われらは管理を求めている、醜俗を美化し、神話を元にわれらを至高の生物とさせる、われらに引導を渡す絶対正義の独裁を。
 可能性の塊、穢れない子どもらを汚猥の枠に押し込み、垢まみれにさせて大満足! 卑小、穢俗な世界こそわれらの未来! 変革なんかするんじゃねえぞ!

 505号室、宴会もたけなわ。汚染水で乾杯、純粋培養の葉っぱで目も虚ろ、コウモリもフクロウも飛んでくる── 夜の女王が喧しい。他の部屋の住人たちも破顔一笑、邁進突進、ぞくぞくと女王閣下の元へ。
 こんなみぢかに、こんなパラダイス、知りませんでしたよ! ギター、オーボエ、キーボード… にこやかに。晴れがましく、生き生きと! 演奏開始!
 さあ平和がやって来ました! 平和万歳! こんなに平和なのに、この世を憂うのは大馬鹿者!
 大平和の祝宴、さあさ無礼講、ああ女王様の何という妖艶な! コウモリ男が宙を舞い… 牙をむき出し逆さ立ち… 虎の穴からマッチョマンもご登場! カイツムリはばたばた潜水を開始した… グワグワ! 魂の叫び… トンボ男が目を回し… ミスター・サギが縦横無尽、2DKを飛び跳ねる…
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