第4話 401、201

文字数 1,183文字

 おお、かわいそうに! 愛深きゆえに… サウザー様! 戦争だ! 愛する妻のために彼は隣人を憎んだ、殺意の花火を打ち上げて… 紙一重の招き猫… あのまま仕切り板を蹴破って突入していたら… こうして戦争は起こるんだ、なぜわからないのか! わかれ、わかれの応酬、「生活音だ」「常識を守れ」それぞれの言い分、習慣の違い、空気の味の違い!
 盾はこっちを守るため、矛はあっちへ。ありがたい矛盾! 守るためには敵が要る! 敵があればこそ守るべきものが… いっそう強化される、攻撃隊も、防衛隊も、気力の軍事費を惜しみなく使える!
 優しいやつほど、いきなり冷たくなる、その対象が異なれば! 同じ力が注がれる、一方は温もる温水へ、一方は凍える冷水へ! ひとりの人間から起こることだ、たった一人の…
 いつだって対象が必要なんだ、憎める対象、愛せる対象が!

 それにしてもわれわれ、便宜上生み出されたはずだが? われわれ自身、「言葉」と呼ばれ、人はわれわれを言葉と呼んでいる… 物質名詞! 物質を表す名称として使われている間は、ああ、われわれも苦を伴わなかったよ。抽象名詞、あいつがやたらのさばって… 愛だの美だの感動だの、あいつら一体何を云いたいんだ? 何の役にも立たないじゃないか! コップはコップ! フライパンはフライパン! 在る物、目に見える物、手に取れる物をわれわれは表わすんだ。それ以外、何の意味もない!
 理解もへったくれもないんだ、われわれには! そもそもが!
 退屈しはじめたんだ、人間は。ラブレターを書き、遺言を書き! 絵文字を駆使し、こっちの気持ち、あっちの気持ち、「思い」を伝えたい、「理解」したいされたい、押し合いへし合い、一生懸命おしくらまんじゅう、一人一人のその中で…

 ああ、われわれ、癒しのために、使われたかったよ。抽象名詞が云う。でも、そのためには傷が要ったんだ… 慰め、やさしさ、それだけではぼくら、できあがらなかったんだ…

 勇気だよ、勇気! 抽象名詞が云う。美しいだけじゃ駄目なんだ、綺麗なだけじゃ駄目なんだ、ぼくらは!
 醜い、醜悪なもの、穢れたものを見る勇気、見続ける勇気、人間どもにこいつが備わってなけりゃあ… ウラー! 万歳だってできやしない、片手落ちさ!
 勇気なんて地道なもんなんだ、英雄的なもんじゃない! この勇気がない限り、戦争なんかいつまでたったってなくなりゃしない…

 さあ、301の仮面夫婦のことの続きは? 401、201の住人のことは? 肝心なのはそこだ、いつもの繰り返し… ワンパターンの繰り返し、この日常、時間、やりきれない、うんざりな繰り返し、この生活の中に。
 戦地じゃ臓器が血の海にのたうってる… 目を背けたい、見るに堪えないって? そいつはお前自身の中にもあるもんなんだ…
 閲覧注意? 日常茶飯事だ、自分の心身をよく見つめ給えよ…
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