第11話 501

文字数 1,255文字

 ほんとうに自立を目指している女がいる… 自分を取り戻そうとする女がいる。
 ── 彼のことを、いつも考えていたんです。それはもう習慣でした。ZOZOタウンで買い物する時も、ああこれは彼に似合うかな、スーパーでお惣菜を買う時も、彼は今日はこれを食べたいかなって。私の買いたい物より、まず彼! この下着なら彼喜ぶかな、こう振る舞えば、こんな声を出せば喜ぶかな… もう、そればっかりだったんです。

 ええ、一緒に暮らしていましたよ。親に内緒で! あんな男と結婚するなって言われていました。でも好きだったんですよ、好きだったんですよ、それしかないですよね。
 洗濯物を干す時も、彼ならこんな干し方が気に入るだろう、食器の置き方もぬいぐるみの配置も、彼のことをまず!

 そしたら私、自分がなくなっちゃったんです。あれッ、私、何が好きなんだろ、私は何が食べたかったんだろ、何を着たかったんだろ、私は何をしたかったんだろ… ええ、自分がなくなっちゃったんですよ、まったく!
 彼を好きになる前の私が、ほんとの私だったのかなとも考えました。でも彼を好きになったのは私ですし、ほんとの私は彼を好きなんですね。

 でも私がなくなりました。彼が喜んでも、そのぶん、喜ばなかったらひどく悲しくなります、ええそれはもう死にたくなるほどですよ!
 私、ほんとうに生きているんだろうか、って思いました。
 何をするにも彼、彼、彼! 私、彼がうとましくなってきました。一緒にいても私が全然楽しめないんです。

 ええ、別れましたよ、もう。彼と一緒にいたら私がダメになる…
 私思うんですけど、女性の自立って何でしょうね? ひと昔前は、男尊女卑、いえ、専業主婦、女は内、男は外でしたけど、そのおかげで子育てに専念できたものでしたでしょう?
 子どもを育てるって、人間として最高の仕事、女はやっていたのでしょう?

 社会進出、女性の社会進出が悪いだなんて言いません、時代の流れ、良いも悪いもありません。ですがあの時代、六人も七人も子どもを産んで、好きな人の子どもを産んで育てていたあの時代! ひょっとして、すごい素敵な時代、生き生きと、人と人が、笑い合って、泣き合って、愚痴も立派に言い合えていたような時代だった気がします。

 私は、ひとりになることを決めました。ええ、これは私の中の流れです。外の流れは、勝手にしやがれです。私は私のほんとうを中心に、生活を回して行こうと思っています。ええ、私は私以外にはなれないんです、なれないことを知りました。
 この人かなと思う人いたけれど、やっぱり違ってた。これでも何回か、本気で恋、したんですよ。
 私は誰にもなれませんでした。

 ── ああ、ここにも言葉で考える人がいる! 自分で自分を整理する時、われわれは常に使われて、ひとつ終わればすぐ捨てられて。
 言葉で考え、言葉でけりをつけて。また言葉で何か言い、無言になっても言葉で考えてる。
 われわれの仕事は、人と人との間に生きることだったのに。
 ひとりひとりで、何だか、やってるねえ!
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