セーズマリットの騒がしい一日(2)

文字数 1,182文字

 見るものすべてがめずらしい。

 ラオは歩きながらずっとキョロキョロしていた。

 荷車を引く男、眠たそうに歩く女性。

 野菜や魚を売る者、飲食店を開いている者。様々な生活がそこにはあった。

 街路はよく整備されていて歩きやすい。石畳も島にはなかったので、乗っかって飛び跳ね、女性陣に苦笑されたりした。

まずは服だな。

もうちょっとマシなもんを着てもらわねーと。

でも俺、お金持ってないけど……。

いいよいいよ。

乗船記念ってことであたしが出してやる。

ほら、あそこに見えるだろ。あたしらがいつも行く服屋だ。

 ラオ達は十字路の角に建っている小さな店に入った。

 中には様々な服が置かれている。

 シャツやブラウスといったものから、高そうなコートやハットも売られていた。

お姉さま!

わたし、ラオさんは黒いズボンが似合うと思うです。

ええそうね。

キュロットよりはズボンが合っているでしょうね。

じゃ、ズボンはこれでいいか……。

シュトラ、シャツはこれでどうだ?

あら、いいと思いますよ。

それから上に一枚、ローブのような物がほしいですね。この緑色のローブなんてどうです?

あ、それ似合うと思いますです!

(なんか勝手に決められてるけど……こういうのは街に住んでる人に任せたほうが確実だよな)

 女性陣の話し合いで、シャツ、ローブ、ズボンが選ばれた。

 ロギアが会計を終わらせたあと、ラオは店の個室を借りて早速着替えた。

 島で着ていたボロボロのシャツとズボンとは、ここでおさらばだ。

お。
あら。
おおー!
 着替えたラオを見て、女性陣が嬉しそうに反応する。
ど、どうかな。

いいじゃん。

すげー似合ってるぜ。

商船のえらい人みたいです!

かっこよいです!

…………。
シュトラさん、どう?

ええ、お似合いだと思います。

でも……全身を黒で固めるのもよかったかもしれませんね。

ああ、それはそれでかっこよさそうだな。

なんだっけ……執事みたいな感じになりそうだ。

執事ですか?

どちらかというと、令嬢の教育係ではないでしょうか?

いや執事だろ。

こうやって紐を首に巻きつけてさあ……。

ロギア、その表現は誤解を招きます。

あれにはタイという名前があるんですよ。

そんなんどうだっていいだろ。

あたしは執事のほうが似合うって言いたかっただけだ。

いえ、教師ですよ。
執事。
教師です。
なんだよ、今日はえらくつっかかってくるじゃねえか。そんなにラオがお気に入りになっちまったのか?

あ……すみません。

ちょっと妄想が膨れ上がってしまって……。

出た、謎の妄想癖。

身近な人間でやるのは勘弁してやれよ。

すみません、今後は自重します。
そう言って自重できたことはないですけどね……。
あら……フィーネ?
あっ、ご、ごめんなさいです!
(騒がしい人達だな。でも、人と一緒にいてこんなに楽しいなんて……初めてだ)

よーし、着替えも終わったし、次はメシだ!

行こうぜ!

 全員が「おーっ!」と返事をした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

「ラオ」

孤島出身の少年。〈紫焔(ブレープル)〉と呼ばれる紫色の炎を操ることができる。

「ロギア・ガーネット」

帆船『ガンマディオラ』の甲板を仕切っている少女。勝ち気な性格。

「シュトラ」

『ガンマディオラ』のメンバーでフィーネの姉。故郷を海魔に攻め滅ぼされ、流転の果てにこの船の一員となった。

「フィーネ」

シュトラの妹。海魔に故郷を攻め滅ぼされ、姉とともに行く当てのない旅を続け、やがて『ガンマディオラ』に乗船することになる。姉への依存が深刻。

「ディック・ハンヴィール」

『ガンマディオラ』の船長。〈神糸(リオット)〉と呼ばれる能力で帆船一隻を丸々操っている。膨大な力を消費するため、航行中はいつも寝落ち寸前の状態。

「サクラ・イカヅチ」

東方の武人の血を引く少女。雷撃を宿した刀を使って海魔を倒す。

「ハーヴェイ・チェッカータ」

大声を衝撃波に変える〈鬼哭(シャウガ)〉という能力を持つ青年。能力のせいで大声を出すと話し相手を吹っ飛ばしてしまうため、寡黙を貫いている。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色