セーズマリットの騒がしい一日(4)

文字数 1,040文字

さて、バカ話はこの辺にして飯だ。

賛成です。

もう疲れました……。

見ろラオ。

ここの店主はすげー料理好きでさ、他とは比べもんにならないほど食いもんが充実してんだよ。――あっ、これ絶対うまいぜ。あたしが食わせてやる。

え!?

えっ!?

 ロギアが四角く切られた肉にフォークを突き刺し、ラオに向けてくる。
早く口あけろよ。
いや……そういうのはちょっと恥ずかしいっていうか……。

気にすんなって!

ほら!

うわ、もが――――っ!

ロギア!

乱暴はいけませんよ!

こいつが暴れなきゃすぐ入ったんだよ。

で、味はどうよ?

(もぐもぐ)……うわっ、すごく味が濃い! こんなの初めて食べたよ! なんの肉?

牛だよ。

食ったことねえのか?

な、ない。

ねえのかよ……。

島ってのは楽しみが少なそうな場所だな。

まったく、その通りだ。
そこも否定しねえのか……。

実際、俺はあんまり好きじゃなかったから。

居心地もよくなかったし。

仲良くしてる奴もいなかったのか?
いたら、今頃俺はここにいなかったよ。
そっか……。

 ロギアが視線を下にやった。

 シュトラもうまい言葉が見つからない様子で、ちょっと気まずそうだ。

でもさ。
 取り繕うのも見苦しいと思ったが、ラオははっきり言うことにした。
まだ少ししか一緒に行動してないのに、みんなといるほうがずっと楽しく感じるよ。それだけで、今の俺はすごく幸せなんだ。
 ロギアとシュトラはぽかんとしていたが、やがてスッと視線を逸らした。
ま、まあ、あたし達はそのくらい魅力あるからな。
……やだ、ラオさんの表情、反則ですよ。
(あれ……)
 なんだかおかしな空気になってしまった。
と、とにかく、追い出されるまでは『ガンマディオラ』にいるつもりだから、あらためてよろしくね。

追い出すわけねーだろ。

こっちこそよろしくな。

 ラオはロギアとがっちり握手を交わす。

 手を握っているうちにロギアの顔がだんだん赤くなっていった。

えーっと、ちょっと外に出てくる。

お前ら、好きに食ってていいぞ。

ロギア……どうかしたの?
一服してくるんだよ。じゃあな。
あ、行っちゃった……。
ラオさん、ロギアは自分が受ける立場になると照れ屋さんになってしまうんですよ。あの子なりにラオさんを歓迎しているつもりなので、わかってあげてくださいね。
それは、もちろん。

それにしても、すごくはしゃいでましたね。

久しぶりに仲間が増えたことがとても嬉しかったのでしょう。

そっか……(俺も、仲間に数えてくれるんだ)

 ラオの胸が温かくなった。

 それは決して、酒の酔いのせいだけではなかった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

「ラオ」

孤島出身の少年。〈紫焔(ブレープル)〉と呼ばれる紫色の炎を操ることができる。

「ロギア・ガーネット」

帆船『ガンマディオラ』の甲板を仕切っている少女。勝ち気な性格。

「シュトラ」

『ガンマディオラ』のメンバーでフィーネの姉。故郷を海魔に攻め滅ぼされ、流転の果てにこの船の一員となった。

「フィーネ」

シュトラの妹。海魔に故郷を攻め滅ぼされ、姉とともに行く当てのない旅を続け、やがて『ガンマディオラ』に乗船することになる。姉への依存が深刻。

「ディック・ハンヴィール」

『ガンマディオラ』の船長。〈神糸(リオット)〉と呼ばれる能力で帆船一隻を丸々操っている。膨大な力を消費するため、航行中はいつも寝落ち寸前の状態。

「サクラ・イカヅチ」

東方の武人の血を引く少女。雷撃を宿した刀を使って海魔を倒す。

「ハーヴェイ・チェッカータ」

大声を衝撃波に変える〈鬼哭(シャウガ)〉という能力を持つ青年。能力のせいで大声を出すと話し相手を吹っ飛ばしてしまうため、寡黙を貫いている。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色