ガンマディオラ(3)

文字数 1,218文字

 船尾甲板を下り、今度は船首方向へ向かって進む。

 そこには、美しい金髪を潮風になびかせている少女の姿があった。

おーいシュトラ、さっき拾ったこいつ、今日からこの船で働くことになったんでよろしくな。
あら、そうなんですね。

 シュトラと呼ばれた少女は、ラオを見つめてくる。

 澄んだ瞳がとても綺麗だ。

はじめまして。

ラオって呼んでくれ。

私はシュトラと申します。

ラオさん、よろしくお願いしますね。

もうお体の方はよろしいんですか?

うん、おかげさまでバッチリ。

運が良かったみたいだ。

おね~さま~。
(う、なんかごてごてした格好の女の子が出てきたぞ……)

ちょうどいいところに来たわね。

――ラオさん、この子は私の妹でフィーネと言います。

仲良くしてあげてください。

ほら、貴女も挨拶なさい。

は、はじめまして。

フィーネっていいます。

好きなように呼んでくれればいいです。

あ、そうなの?

じゃあ……フィーちゃんとか?

え、えええええええ――――っ!?
 なぜかひどく驚かれた。
出会ったばっかりの女の子にいきなりあだ名をつけるなんて……なんか怖い人ですっ!

ええええっ!?

でも好きなように呼んでって言ったのはフィーちゃんでしょ!?

やっぱりいやですっ!

なんか背中がぞわぞわってしたので!

ふつうにフィーネと呼んでください!

だったら最初からそう言ってくれればよかったんだよ!

そしたら俺もフィーちゃんなんて恥ずかしい呼び方しなかった!

じ、自分で言っといて恥ずかしいってなんですか!

それわたしの愛称にするつもりだったんですよね!?

もう、フィーネったら。
あうっ。
 シュトラの指が、フィーネの額をピコンとはじいた。
怒られてしまいました……。

貴女がラオさんを困らせるからですよ。

愛称には親しみが込められているのですから、そこまで嫌がることもないでしょう?

で、でも、お姉さまだってシューちゃんて呼ばれたらぞわっとしませんですか!?
…………。

 シュトラはラオをじっと見つめたあと、ほんのり頬を赤く染めて視線を逸らした。

あり……かも……。
(ありなのか……。)

おーい、茶番はそのへんにしてくれよ。

フィーネに挨拶すんだろ?

あ、そうだった。

 ラオはフィーネに名前を教えた。

 ロギア、船長、シュトラ、フィーネ。

 四人に自己紹介したことになる。

 孤島生まれの田舎者なんて、と馬鹿にされることを気にしていたラオだったが、そんなことは一切なかった。

さて、挨拶も終わったんだ。

ラオは部屋に戻ってもうちょっと休みな。

え、でも……。

(もう少しみんなと話したい……。)

バッカ、クラーケンとやりあったあと海にプカーだったんだぞ?

ちゃんと体力戻してもらわなきゃこっちが困るんだ。

仕事中にぶっ倒れられたらあたしらの仕事が増えるしな。

うん……。
眠れねぇなら手伝ってやってもいいぜ?
 ロギアが笑顔で右手の指をポキポキ鳴らした。
す、すみません! 寝ます!
 シュトラ、フィーネ姉妹への挨拶もそこそこに、ラオは下甲板へと慌てて戻っていった。
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登場人物紹介

「ラオ」

孤島出身の少年。〈紫焔(ブレープル)〉と呼ばれる紫色の炎を操ることができる。

「ロギア・ガーネット」

帆船『ガンマディオラ』の甲板を仕切っている少女。勝ち気な性格。

「シュトラ」

『ガンマディオラ』のメンバーでフィーネの姉。故郷を海魔に攻め滅ぼされ、流転の果てにこの船の一員となった。

「フィーネ」

シュトラの妹。海魔に故郷を攻め滅ぼされ、姉とともに行く当てのない旅を続け、やがて『ガンマディオラ』に乗船することになる。姉への依存が深刻。

「ディック・ハンヴィール」

『ガンマディオラ』の船長。〈神糸(リオット)〉と呼ばれる能力で帆船一隻を丸々操っている。膨大な力を消費するため、航行中はいつも寝落ち寸前の状態。

「サクラ・イカヅチ」

東方の武人の血を引く少女。雷撃を宿した刀を使って海魔を倒す。

「ハーヴェイ・チェッカータ」

大声を衝撃波に変える〈鬼哭(シャウガ)〉という能力を持つ青年。能力のせいで大声を出すと話し相手を吹っ飛ばしてしまうため、寡黙を貫いている。

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