狂乱の朝浜
文字数 1,869文字
朝の浜辺を荒らし回っていたのはワニに似た海魔だった。
強靱な四つ足と太い尻尾で小舟を破壊したり桟橋をバラバラにしたりと暴れ回っている。パッと見ても十体以上はいるだろう。
背中には針のようなトゲが生えていて、背後から不意を打つのは難しそうだ。
ラオとサクラはまっすぐ錨地へ走っていった。
すでに星力者(テーラ)と思われる男達が集まって反撃を開始している。
能力も様々だ。
腕が膨れ上がって腕力が強化される者もいるし、墨を撃って目潰しをしている者もいる。
言うが早いか、サクラは走っていってしまった。
彼女は走りながら刀を抜き、一体のガルザルチとすれ違う。その瞬間、海魔の上顎から眼球の後方までが一気に断ち切られ、すさまじい血が噴き上がった。
ラオは周囲を見渡し、左側の砂浜へ走っていった。
一人の男がガルザルチに押されている。
男が離れると、ガルザルチがラオを見た。
まん丸な目が睨みつけてくる。
ラオの右手に紫色の炎が集まって発現する。
意識を集中して火炎を練り上げ、火球に変化させた。
全力で投げつける。
火球はガルザルチの顔面を直撃したが、倒すまではいかない。
相手は焦げた顎を地面にこすりつけてから突っ込んできた。
ラオは左に跳んで回避した。
思ったより速い。
ラオは炎を伸ばして剣の形を作り上げる。
実際の剣と違って重量がないので扱いは簡単だ。
ガルザルチの背後から斬りかかった。
しかし、背中のトゲ山に当たった剣がはじき返される。
ラオは体勢を崩した。
そこに、ガルザルチの尻尾が飛んできた。
重い一撃を受けて、ラオは砂浜を転がった。
砂が口に入る。
吐き出しながらガルザルチを睨んだ。
向こうもこちらを見ている。
ガチン、ガチンと、相手は牙を打ち鳴らしてラオを威嚇する。
その音が、ラオから闘争心を奪い取っていく。
腕が小刻みに震え始めた。
さっき自分に言い聞かせたはずだった。
この程度の相手におびえていては、クラーケンなど倒せないと。
頭ではわかっていても、体が動いてくれない。
ラオは完全に硬直していた。
ガルザルチがガチガチガチ……と牙を鳴らす。
そして突っ込んできた。
ラオはまだ動けない。
ただ、目を閉じるしかできなかった。
不意に、猛烈な突風が吹いた。
ガルザルチが吹っ飛び、ラオも砂浜に押しつけられるように倒された。
グアッ、と声がした。
ロギアに倒されたガルザルチが、起き上がって彼女に飛びかかった。
上からすさまじい風が吹き下ろした。
風はガルザルチにだけ集中する。
海魔の体はぐんぐん押されて、半分以上が砂に埋まってしまった。
急に言葉遣いがおかしくなった。
ラオはシュトラの言葉を思い出した。