ガンマディオラ(1)

文字数 1,431文字

ううん……。

 ラオが目を覚ますと、静かな波の音が聞こえた。

 木材の軋む音、海鳥の鳴き声……。

 彼は小さな部屋の中にいた。

よう。

わっ!?

だ、誰!?

おいおい、そんなに驚くなよ。

フツーに声かけただけだろ?

き、君は?

あたしはロギア・ガーネットっていうんだ。

ロギアでいいぞ。

ロギア、だな……。

俺はラオライア……。

ふーん。

勇ましそうな名前にしてはおどおどしてんな。

し、仕方ないだろ!

自分でもわけがわからないんだ。そもそもここはどこなんだ!?

ここは『ガンマディオラ』っつー帆船の中だ。

あたしらが航海してたらお前さんが空から降ってきて目の前にドボン。

びっくりしてみんなで慌てて引き上げたんだぜ。

そ、そうだったのか……。

俺、迷惑かけちゃったんだな。

あのくらい迷惑でもなんでもねーよ。

それより、なんで空から落ちてきたんだ?

俺はクラーケンと戦ってたんだ。

でもあっさりやられて吹っ飛ばされた……。

なるほどね。

命知らずなんだか馬鹿なんだかわかんねーな。

ね、ねえ!

君なんか口悪くない!?

元からそーいう性格なんだよ。

ってかあたしでなくてもみんな考えるだろうよ。

たった一人でクラーケンに挑もうなんてさ。

お前は星力者(テーラ)なんだよな?

い、一応……。
 星力者は、ラオのように通常の人間には使えない異能を持った者達の総称だ。

クラーケンっつったら、星力者が何人も集まってやっと倒せるくらいの海魔(かいま)だぜ?

そんなのに一人で向かってくなんて正気とは思えねーよ。

耐えられなかったんだ!!
…………。
あいつは、俺からたった一人の家族を……姉さんを奪っていったんだ……。
両親とか、他の家族はいないのか。

いない。

父さんも母さんも、俺が小さい頃に嵐に呑まれて死んだ。

俺が生まれ育った島では、星力者(テーラ)は恐れられてる。だから俺が心を許せる相手は姉さんしかいなかった……。

なのに、奴は……。

それでカッとなって飛び出しちまった。

んであっけなくやられたと。

まあ、死ななかったんだから儲けたっていえば儲けたな。

でも、復讐だけは絶対に果たしたいんだ。

俺はもう一度、クラーケンを探しにいく。――いてっ!

 ロギアのデコピンがラオの額を弾いた。

 のけぞりすぎてベッドから落ちそうになる。

そういうのは蛮勇っていうんだよ。

せっかく拾ってやった命を無駄に捨てられたらたまったもんじゃねえぜ。

まず頭を使え。

クラーケンを倒すには何が必要だ?

ええと……。

――そうか、仲間が……。

はい、正解。

っつーことでどうだ、うちの船で仕事してみないか?

『ガンマディオラ』は海魔討伐専門の帆船だ。

ここに乗ってりゃ、そのうちお目当てのクラーケンにぶつかるかもしれないぜ。

この船で、仕事……。

そ。

雑用から始めて、低級の海魔を倒すことで経験を積む。

その上でクラーケンを倒しに行く。

あたしらとしてもクラーケンを倒せればかなりの稼ぎになるからな、お互いにとって悪い話じゃないと思うぜ?

 ラオは腕を組んで考え込んだ。

 しかし、仕草とは裏腹に、答えはほぼ決まっていた。

 ラオが生まれ育ったポドカルガス島。

 そこに彼の居場所はなかった。

 ただ星力者(テーラ)として恐れられ、全員から距離を置かれてむなしく過ごすだけの日々だった。

 そんな日々、捨てたところでなんの問題もない。

船長に、会わせてくれないか。

お、腹は決まったか?

いいぜ、ついてきな。

 ラオはロギアを追いかけて船室を出た。

 上甲板に出ると、海は穏やかに凪いでいた。

 あの風雷が嘘のように、大洋は平和だった。

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登場人物紹介

「ラオ」

孤島出身の少年。〈紫焔(ブレープル)〉と呼ばれる紫色の炎を操ることができる。

「ロギア・ガーネット」

帆船『ガンマディオラ』の甲板を仕切っている少女。勝ち気な性格。

「シュトラ」

『ガンマディオラ』のメンバーでフィーネの姉。故郷を海魔に攻め滅ぼされ、流転の果てにこの船の一員となった。

「フィーネ」

シュトラの妹。海魔に故郷を攻め滅ぼされ、姉とともに行く当てのない旅を続け、やがて『ガンマディオラ』に乗船することになる。姉への依存が深刻。

「ディック・ハンヴィール」

『ガンマディオラ』の船長。〈神糸(リオット)〉と呼ばれる能力で帆船一隻を丸々操っている。膨大な力を消費するため、航行中はいつも寝落ち寸前の状態。

「サクラ・イカヅチ」

東方の武人の血を引く少女。雷撃を宿した刀を使って海魔を倒す。

「ハーヴェイ・チェッカータ」

大声を衝撃波に変える〈鬼哭(シャウガ)〉という能力を持つ青年。能力のせいで大声を出すと話し相手を吹っ飛ばしてしまうため、寡黙を貫いている。

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