大襲撃の予兆
文字数 2,265文字
セーズマリットの港を離れて三日ほどが経った。
外は変わらず雨のままで、ラオも変わらず本を読み続けていた。
おかげで知識もかなり吸収できた。お金も価値もわかって、あの酒場で奪われた金額の大きさに胸が痛くなったりもした。
ラオは外に出た。
横から雨が叩きつけてくる。この程度の雨なら島でいくらでも経験してきたから、ラオには気にならなかった。
ロギアに先導されて船首甲板に行くと、指の先、巨大な城壁が遠目に見えた。
孤島に住んでいたラオにとっては縁のないものだった。
しかし、外の世界では頻繁に〈戦争〉が起こっているのだとか。実際に見たわけではないので、どうにも実感が湧かないが。
ロギアがまた船尾甲板へ移動し、帆に風を入れて『ガンマディオラ』の向きを調整し始めた。
ラオとサクラは、並んで港の沖合を睨んでいる。
『ガンマディオラ』が半魚人の群れに向かって突進していく。荒波に船体を大きく揺らしながら猛然と迫っていく。
相手もそれに気づいた。
沖合を染めていた緑色の群れがこちらに向かって移動を始める。
半魚人の体色は濃い緑色。それが大量に集まっているので、緑の膜が漂ってくるようにも映る。
しかしその実体は、食欲に突き動かされた海魔どもの泳ぐ姿だ。
ガロメーザと呼ばれた海魔は口を大きく開き、紫色の液体を放出した。
水流が山なりの軌道を描いて軍艦の真上に落ちていく。液体自体にかなりの質量があるらしく、直撃を受けた軍艦が木っ端微塵に破壊された。
船体が大きくえぐられ、マストや帆がすべて海へ流出する。
ガロメーザを見ている間に、『ガンマディオラ』と半魚人の群れの距離はどんどん縮まっていた。
ラオの
突如爆音が響き渡り、同時に衝撃波がラオの全身を押しのけていった。
半魚人の群れが圧力に押されて次々に吹っ飛んでいく。後方の半魚人も困惑した様子で、泳ぐのをやめている。進撃が完全に停滞していた。
すさまじい圧力に、ラオも転びそうになっていた。
耳がキンキンしてふらつく。
隣のサクラは、冷静な表情で耳を塞いでいた。
不意に強力な一撃を受けたためか、半魚人の群れは向きを変えた。
城壁の西の沖へと撤退を開始する。
ガロメーザも奴らに合わせるようにして海中に姿を消した。
先制攻撃に成功した『ガンマディオラ』は、カタナルタの錨地へ針路を変更した。
下層の船室にいたシュトラ、フィーネ姉妹に行き先を報告してから上甲板へ戻る。
ラオはハーヴェイの超星力のことを考えていた。
強力な力を見せてもらった。
これまでまた、クラーケンへの復讐に新たな希望が持てる――。
彼はそう感じていた。