セーズマリットの騒がしい一日(3)

文字数 1,608文字


 かんぱ~い!――と四人の声が響く。

 海を一望できる場所に建った酒場〈赤獅子亭〉の二階である。

 ラオ達は四人で四角いテーブルを囲んでいた。ラオとロギアが並んで座り、対面にはシュトラとフィーネ姉妹がいる。



どうだよラオ、こういう感じで飯食うのは初めてだろ?

う、うん。

島では地面に座って食べてたから……。

じゃあこういう食器はどうだ?

ジョッキっていうんだけどさ、ピッカピカに磨かれてて綺麗だろ。

それも使うのは初めてだ。

俺は木をくりぬいた食器しか使ったことがないし。

だろだろ?

初めてのものだらけで新鮮だろ?

そんじゃあ早速飲んでみろよ。あ、一気にいくとぶっ倒れるぞ。まずはゆっくり――

ロギア、はしゃぎすぎです。

ラオさんにもうちょっと静かに食事をさせてあげてください。

ああ、わりーな。

久々の新入りだからついつい……。

 すでに盛り上がっているロギアの横で、ラオはジョッキに口をつけた。

 赤色の液体を喉に流し込む。

 濃密な香りが広がった。

うわっ!?

すごいぞこれ! もっと苦いのかと思ってたけど……。

ガロッタって酒でな、けっこう甘いんだよそれ。

西の方に原料の木の実が採れる島があってさ、あたしらが獲りに行くんだ。

材料集めも大変だね。

その代わり安く飲ませてもらえんのさ。

ホントは死ぬほど高いんだぜ?

 自慢げに言って胸を張るロギア。

 薄手の服の下で、二つの膨らみが浮き上がる。

(う……考えるな。でも、今まで気づかなかったけど意外にあるんだな……)

どうした?

い、いや、なんでもない。

もう酔ってきた……のかな?

へへん、わかってんだぜ。このあたしの美しさに見とれてたんだろ?
えーっと、美しさっていうか……。
 ちらっと、ロギアの胸にまた視線が行ってしまう。
あ、お前があたしのどこを見てたのかわかった。
えっ……?

ここだろ?

いいぜ、別に減るもんじゃねえしさー、ほらほらほらー。

わああ!?

ちょっ、ロギッ、ごふっ――

 ロギアの腕がラオの首を押さえた。

 ラオの顔は一瞬のうちにロギアの胸に押しつけられていた。

 柔らかい。そして温かい。

 全身が熱くなった。

(や、ややややばい! このままじゃっ……自分が抑えきれなくなるっ……!)

ロギアッ!

非常識ですよ!

いてっ!

 コーン、と快音がしてロギアが硬直した。

 シュトラがテーブル越しに身を乗り出している。右手に握られたスプーンでロギアを叩いたらしかった。

ふ、ふしだらにもほどがあります。

お店の中で男の人に胸を押しつけるなんて!

お前も、店のスプーンで人の頭を叩くのはどうかと思うけどな。

あっ……い、いけない。

私ったらつい……。

 シュトラは自分の行動に衝撃を受けた様子で、しなしなと椅子に座り込んだ。
――で、ラオ。
……なんでしょうロギアさん。
男にないものの感触はどうだった?

え、か、感触?

……ええと、その、や、柔らかくて……よかったです……?

くっ……あははははははははっ!!
 ロギアがテーブルをバシバシ叩いて爆笑した。
いい! いいよお前の純粋さ! 超最高!

ロギアッ、いい加減にしなさい!

ラオさんがげっそりしちゃってますよ!

 ぽん、とロギアがラオの肩に手を置いてくる。
なあ、間違ってもさっきのをシュトラで試すんじゃねえぞ。あいつは胸がでかいから息ができなくなってあぶねぇ。
ちょ、ちょっとロギア!?
でかいのは事実だろーが。
私はあんな真似しません!

お、大きいとそういう危険もあるんだな。

勉強になるよ!

ラ、ラオさん!?

真に受けてはいけませんよ!?

お姉さまのお胸はふにゅふにゅなんですよ~。

フィーネまで!

貴女は加わらなくていいの!

そういや姉妹は一緒に寝てるんだもんな。
はいっ。あったかくて最高です。

あたしはしばらく味わってねぇぞ。

おいシュトラ、そのうちまた触らせろよ。

い、や、で、す!
どのくらい成長したか確かめてやろうではないか。
人の話を聞きなさい! 嫌だと言ったんです!
 いつの間にか、テーブルの上は混沌とし始めていた……。
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登場人物紹介

「ラオ」

孤島出身の少年。〈紫焔(ブレープル)〉と呼ばれる紫色の炎を操ることができる。

「ロギア・ガーネット」

帆船『ガンマディオラ』の甲板を仕切っている少女。勝ち気な性格。

「シュトラ」

『ガンマディオラ』のメンバーでフィーネの姉。故郷を海魔に攻め滅ぼされ、流転の果てにこの船の一員となった。

「フィーネ」

シュトラの妹。海魔に故郷を攻め滅ぼされ、姉とともに行く当てのない旅を続け、やがて『ガンマディオラ』に乗船することになる。姉への依存が深刻。

「ディック・ハンヴィール」

『ガンマディオラ』の船長。〈神糸(リオット)〉と呼ばれる能力で帆船一隻を丸々操っている。膨大な力を消費するため、航行中はいつも寝落ち寸前の状態。

「サクラ・イカヅチ」

東方の武人の血を引く少女。雷撃を宿した刀を使って海魔を倒す。

「ハーヴェイ・チェッカータ」

大声を衝撃波に変える〈鬼哭(シャウガ)〉という能力を持つ青年。能力のせいで大声を出すと話し相手を吹っ飛ばしてしまうため、寡黙を貫いている。

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