新しい土地へ
文字数 2,621文字
陽がその全容を現し、世界の明度が増していく。優しい潮風が吹き寄せてきた。畳まれている帆に流れ込み、バタバタと上空で音が鳴りだす。
半魚人は海魔の中でも弱い部類に入る。
一般人でも、武器によっては充分倒せるくらいだ。
ロギアがラオに視線を向けてくる。
ラオは答えられなかった。
クラーケンの可能性は高いが、また別の大型海魔がいるのかもしれない。
次々にまずい証言が出てくる。
姉妹と別れる時、田舎者は狙われやすい、危険な場所には近づくなと注意されていた。
それを破ったことがばれてしまう。
ラオが酒場に入ったところは誰も見ていないはずだ。
だから、多少嘘を交えて語っても見抜かれない……おそらく。
ここからは本当のことを話しても大丈夫だろう。
ラオは騙されて金を奪われたこと、まずい酒を大量に飲まされて気を失ったこと、路地に放り出されたことを語った。
ガチッと音がして船長室のドアが開いた。
船長のディック・ハンヴィールがゆっくりした足取りで出てくる。
マストに対し垂直に交差する、帆をかける棒をヤードと言う。
そこの片隅に青年が座っていた。強い海風、不安定な足場など関係なさそうに堂々としている。
ラオは船首甲板に移動した。
誰も触っていないのに、帆のロープが解かれて勝手に広がっていく。錨もひとりでに巻き上がっていく。
帆がバタバタと暴れ始めた。
風は海から陸へ吹いているが、それに逆らうようにして『ガンマディオラ』が進んでいく。
ラオは、帆が沖合に向かって膨らんでいるのを見た。
船尾甲板から、ロギアが帆に向かって右手を伸ばしていた。
彼女の放った風が帆に入り、それが『ガンマディオラ』を動かしている。
海上で海魔と戦うなら、これほど心強い二人もいない。
まだ絶対的な確信はない。
それでも、復讐の達成が現実味を帯びてきたような気がした。