第1章 第9話

文字数 1,034文字

「まあー、でも由子は… ねえー」
「うんうん… 由子はねえ」
「ちょっと、二人とも… もう」

 責任を感じたのか、場の空気を変えようと三人組が彼女の家庭について語り出す…

「実は私… バツ付いてるんです…」

 健太は仰天し、いや俺も仰天し。

「えーーーー マジマジマジ? じゃあ今独身?」
「はい。娘と二人で暮らしています」
「へーー。この辺じゃ見かけないよねー 今どこ住んでんの?」
「千鳥ヶ淵です。」

 おいおい… 流石人気俳人だな… そんな超高級地に。

「あー、千鳥町な、蒲田の近くじゃん!」
 クイーンがナイスボケをかます。
「違うよ。皇居のほとりだよ。ね?」
 間宮先生は苦笑いしながら頷く。
「何――― あー。さては元旦那からガッポリ持ってったんだろー」
「こらこら。失礼だろクイーン…」

 間宮先生は更に苦笑いしながら、
「あ、いいんです。光子先輩には、昔本当にお世話になったので。ですよねー」
「ん。まあな。まあ、ボチボチ」
 ちょっと照れているクイーンに微笑みながら、
「ふふ。今のマンション、最初の夫から貰ったんです」
 全員が振り向く。何なら耳ダンボだった周りのお客さえも…

 誰が更に突っ込むかと言えば、もうこの男しかいまい。
「最初って… じゃあお嬢ちゃんはその?」
「いえ。娘は二番目の夫との子なんです」

 オタフクとツリ目以外の全員がゴクリと唾を飲み込む。
 そして全員の期待、希望、願いを背負い、この男が特攻する。

「って事は… バツ… 二…? マジ…」
「ええと… 法的には… よん、かな」

『居酒屋 しまだ』は凍り付いた。もうすぐ夏が来るのと言うに、氷点下となってしまった。
「…四… お、お見逸れ致しやしたっ」
 健太は本当に床に蹲る。俺も膝の力が抜けて、椅子に座っていなかったらしゃがみ込んでいただろう。

 何ということだろうか… 清楚な大人しそうな先生が、まさか誰よりもずっとずっと大人な女性だったとは…

 それからは健太やクイーンに四人の元夫たちの事を根掘り葉掘り聞かれ、健気に答えていた彼女が店を後にしたのは、閉店時間を軽く過ぎた頃だった。

 俺と健太と忍、そしてクイーンは悄然としてカウンターに突っ伏していた。
「人生ってよ… なんか色々だな…」
「その辺の小説とかドラマより色々じゃね?」
「てか。逆にそんだけ色んなオトコを好きになれるって、スゲーわ。アタシにゃムリ…」
「まあー もう来ることは無いっしょ… 初めての有名人… あ。サイン貰うの忘れた…」

 白ぶ… 忍の予想は翌週、簡単に覆される。
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