第4章 第5話

文字数 1,365文字

 目を開ける。間接燈が仄かに部屋を照らす。強い尿意に思わず体がブルっと震える。ゆっくりと身を起こし、トイレで3分は放尿する。最後の滴を振り落とし、フーっと息を吐く。

 これ程呑んだのはいつ以来だろう。

 俺はどれほど呑んでも乱れることなく、飲み会でも決して隙を作ることは無かった。そんな生き方をしてきた。記憶を失うような飲み方は、出世の道を己で塞ぐようなもの。信頼する後輩達にもそう伝えて来たし、邪魔な先輩、同期、有能過ぎる後輩には進んで乱れ酒を送ってきた。

 軽い頭痛に軽く舌打ちをし、冷蔵庫に入っているミネラルウォーターを一気に呷る。甘露とはまさにこのことだ。

 時計を見ると2時半、穏やかな鼾と健やかな寝息が交差している布団に俺は戻る。

 今気づいたが川の字に並べられた布団の、何故か俺が真ん中だ。左隣にクイーン、右隣にゆうこ。しかも布団は三つとも密着している。クイーンの寝相は凄まじく、俺の布団の二分の一程進撃してきている。

 俺はそっと布団に入り、残りの自領でそっと目を閉じる。

 ウトウトしかけた頃、不意に右隣のゆうこが寝返りを打ち、俺の布団に接近するのを感じる。薄く目を開けるともうその目の前にゆうこの寝顔がある。何なら寝息がかかる程に…

 俺は慌てて左に寝返りを打ち、クイーン側に体を向ける。穏やかだった鼾が徐々に迫力を増してきている。

 背中に温もりを感じる。最初は点の温もりだったのが徐々に面積が拡がる。肩甲骨の下辺りに二つの柔らかさを感じ始める。首筋に明確な熱い吐息を感じる。腰に手を回されているのを認識する。

 だが、俺は知っている。俺は興奮することは、無い。何故なら俺の体に密着し探っているのが彼女では無いから。優しく温かく、それはそれで確かに癒される。が、心が、体が燃え勃つことは無い。彼女で無いのだから。

 背中の右手がそっとリトル俺を触れる。無駄だ。どれほど時間をかけようが、それは無駄なことだ。苦笑いが浮かぶ。俺は決して、オマエ以外で… と彼女の凄い寝相を愛おしげに眺め…

 マズい。どれほどの寝相なのか… すっかりクイーンの胸元は肌蹴ており、間接燈がその胸を惜しげも無く照らしている。帯から下も実に淫らな足の組み方だ。

 実に、マズい。心が火照り始めた。リトルが充血を始めた。

 非常に、マズい。背中からの右手がリトルを翻弄し始めた。首筋、そして耳元への吐息は正に『天城越え』だ。

 本当に、マズい。心が完全に燃え始めた。リトルは満充血を終え、次なるビッグバンへの準備が急ピッチで進んでいる。このままではヤバイと思った瞬間、彼女の鼾が一瞬止まり、こちらに半周分の寝返りを打つ。俺の胸に彼女が顔を埋める絵図となる。

 妙な錯覚に陥る。硬直した俺を扱っているのが背中の後輩でなく、彼女だと。心臓の鼓動はこの部屋の寝息、鼾を凌駕し、体は終焉がすぐそこであると主張している。

 我慢の限界を辛うじて保ち、最悪の事態の回避策を必死で探り、それを思い付いた瞬間に彼女の鼾が止まる。

 そして、そっと呟く

「ぐ ん じ」

 俺のリトルが終焉を迎え、激しく脈動したのと、背中の温もりがスッと離れたのが同時であった。

 どれぐらいの時間が経ったのかわからない。彼女が再び鼾を始め、寝返りで俺から遠ざかった後、身も心も灰になった俺は一人そっと浴室に向かう。
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