第11話
文字数 1,264文字
ヒューゴの遺体発見から数日が経った。事件そのものに進展はない。
新たな被害者が現れることもなく捜査は続けられていた。解決の目処も立っていなかったがレナは店を開けることにした。
もちろんルイスの猛反発を食らったがレナは鼻にもかけない。
「親友と恋人が捜査してるんだから問題ない」
「俺は外されたけどな」
拗ねるルイス。
「でも捜査はするんでしょ?」
「当たり前だ」
「あたしも協力するんだから解決は早いから」
「……なっ」
やっぱりそういうつもりだったかとルイスはうなだれた。
「それは構わないが勝手な行動はするなよ。ぜったいだからなッ」
どうせダメだと言い含めようとしても、逆に返り討ちに合うのは目に見えていた。これまで口喧嘩でレナに勝てた試しがない。全敗だ。
ただ、こうして応じておけば単独行動に釘は刺しておける。
「念を押さなくてもわかってるわよ」
心配性めとレナはけらけらと笑った。
「じゃあちょっと署に顔を出してくるから」
そう言ったルイスが一度は玄関を出たものの、くるりと引き返してきた。
「店を開けるのをやめようかなとか、ちらりとも思わないのか」
「思わないから」
しつこく食い下がるルイスの鼻をきゅっと摘んで笑ってやる。しゅんとしょぼくれた様子は子供の頃と変わらず可愛らしい。
自分の背をとっくに追い越したガチガチの筋肉男を捕まえて、可愛らしいもないのだが可愛い。
「なにかあれば携帯鳴らすから」
「なにかあってからじゃ遅い……」
小言に続きそうなルイスの口をレナはすばやくキスで塞いだ。黙らせるにはこれが一番効果的なのだ。
「手口が汚いぞ」
「しつこいからよ。いいから早く行って。無茶はしないって約束するから」
はいはいと背中を押して玄関から追い出した。
「協力するのは許すが無茶は許さないからな」
未練がましく何度も振り返るルイスを追い立てるように送り出して、いつものように一階の古書店を開けた。
休業案内のメモを剥がし、入り口のドアを全開にした。店内から古いインクと埃の匂いが混ざった古書独特の香りが漂ってくる。レナの大好きな匂いだった。
「……」
なにもわかっていないのに、ただ身を潜めていればいいとは思わない。まして自分が原因なのだとしたら尚さらだ。
出入り口近くに置いてあるグリーンの鉢植えに水をやる。乾燥気味の土に水がじわりと染み込む様子をしばらく眺めていた。
「……たまにはあたしから行ってみようかな」
レナは思い立ちラファエルの店を訪ねることにした。
けっきょく店は休むことになったが外出もいい気分転換になる。ふらふら出歩くのではなく、ちゃんとした目的があっての外出だから問題ない。
開けたばかりの店の戸締まりをしてレナはコートを羽織った。ラファエルの店は確かキーニッツァー通りの角だったと記憶している。
向かいに洋服屋があったはず。ここから歩いて十分か十五分程度の距離だ。
レナは空を仰いだ。曇天だが雲の切れ間から陽が射している。気温は相変わらず低いが気にならない。マフラーをくるりと首に巻き、キーニッツァー通りへと歩き出した。
新たな被害者が現れることもなく捜査は続けられていた。解決の目処も立っていなかったがレナは店を開けることにした。
もちろんルイスの猛反発を食らったがレナは鼻にもかけない。
「親友と恋人が捜査してるんだから問題ない」
「俺は外されたけどな」
拗ねるルイス。
「でも捜査はするんでしょ?」
「当たり前だ」
「あたしも協力するんだから解決は早いから」
「……なっ」
やっぱりそういうつもりだったかとルイスはうなだれた。
「それは構わないが勝手な行動はするなよ。ぜったいだからなッ」
どうせダメだと言い含めようとしても、逆に返り討ちに合うのは目に見えていた。これまで口喧嘩でレナに勝てた試しがない。全敗だ。
ただ、こうして応じておけば単独行動に釘は刺しておける。
「念を押さなくてもわかってるわよ」
心配性めとレナはけらけらと笑った。
「じゃあちょっと署に顔を出してくるから」
そう言ったルイスが一度は玄関を出たものの、くるりと引き返してきた。
「店を開けるのをやめようかなとか、ちらりとも思わないのか」
「思わないから」
しつこく食い下がるルイスの鼻をきゅっと摘んで笑ってやる。しゅんとしょぼくれた様子は子供の頃と変わらず可愛らしい。
自分の背をとっくに追い越したガチガチの筋肉男を捕まえて、可愛らしいもないのだが可愛い。
「なにかあれば携帯鳴らすから」
「なにかあってからじゃ遅い……」
小言に続きそうなルイスの口をレナはすばやくキスで塞いだ。黙らせるにはこれが一番効果的なのだ。
「手口が汚いぞ」
「しつこいからよ。いいから早く行って。無茶はしないって約束するから」
はいはいと背中を押して玄関から追い出した。
「協力するのは許すが無茶は許さないからな」
未練がましく何度も振り返るルイスを追い立てるように送り出して、いつものように一階の古書店を開けた。
休業案内のメモを剥がし、入り口のドアを全開にした。店内から古いインクと埃の匂いが混ざった古書独特の香りが漂ってくる。レナの大好きな匂いだった。
「……」
なにもわかっていないのに、ただ身を潜めていればいいとは思わない。まして自分が原因なのだとしたら尚さらだ。
出入り口近くに置いてあるグリーンの鉢植えに水をやる。乾燥気味の土に水がじわりと染み込む様子をしばらく眺めていた。
「……たまにはあたしから行ってみようかな」
レナは思い立ちラファエルの店を訪ねることにした。
けっきょく店は休むことになったが外出もいい気分転換になる。ふらふら出歩くのではなく、ちゃんとした目的があっての外出だから問題ない。
開けたばかりの店の戸締まりをしてレナはコートを羽織った。ラファエルの店は確かキーニッツァー通りの角だったと記憶している。
向かいに洋服屋があったはず。ここから歩いて十分か十五分程度の距離だ。
レナは空を仰いだ。曇天だが雲の切れ間から陽が射している。気温は相変わらず低いが気にならない。マフラーをくるりと首に巻き、キーニッツァー通りへと歩き出した。