第3話

文字数 855文字

「今日はやけに積極的だな」
 繰り返しキスを求めてくるレナに、ルイスは目を丸くさせた。
「たまにはいいでしょ。ちゃんと愛してるってわからせてあげないと、アンタすぐ傷つくから」
「そこまで子供じゃないつもりだが、それにしても。なにかあったのか」
 普段とは逆の立場になっている現状をルイスは戸惑った。
「それともなにか誤魔化そうとしてるとか?」
「刑事って嫌な職業ね。なんでもかんでも疑ってかかって」
 ぽんぽんとルイスの胸を軽く叩いてレナは離れた。ルイスの横で膝を抱え、ため息を吐く。
「愛してるってことを伝えないといけないって思ったのは本当のことよ。そう思わせてくれる子がいて……」
 レナはテクラのことを思い浮かべていた。
「今日、店に寄ってくれた常連の女の子なんだけど。その子ね、ローランが好きみたいなの。たまに店で出くわしたときの反応が初々しくてすっごく可愛いの。で、余計なお世話なんだろうけど、仲を取り持てたらって策を練ったりしてね」
「ローランはそういうの、苦手じゃないか? 策を練られたりとか」
「たぶん。――でもね、彼女がローランをみつめる瞳とかローランの話題になったときの嬉しそうな表情なんか、もう周りにバレバレなのに本人的には隠せてるって思ってるところがね。重なるの、いろいろと」
「いろいろ……?」
「そう、いろいろね」
 レナはどこか苦いような含みを持った笑みを口元に浮かべ、続ける。
「言葉にしなきゃ伝わらないし、言葉だけじゃ伝わらないこともあるから。意外とよく似てるのよ、アンタとローラン。だからあたしも策を練った結果、こうして積極的に誘ってるわけよ。どう?」
 ベッドの縁に腰かけていたルイスの胸の真ん中に指を押し当てる。
「じゃあ、もうローランの話は終わりってことか」
「そういうこと」
 トン、と軽く指で押しただけなのに、ルイスの身体は易々とベッドの上へあお向けに倒れた。
 ここからが本番、と二人の言葉が重なる。つかの間の休息を楽しむようにベッドはゆっくりと沈み込んだ。

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