変化../理沙

文字数 2,669文字

〜♪

理沙ちゃん 機嫌良さそうだね?

ふふ 藍ちゃん聞いて!

今日 お父さんに会える上に これから一緒に暮らせるんだって!

会えるって考えたらもう楽しみで…

え!!

それはもう今日 HRが終わったらすぐに帰らなきゃ!!

私に()()という存在の記憶は一切ない

忙しそうなお母さんの姿ばかりが記憶に残っている

一度 お父さんはどうしているのか気になってお母さんに聞いた事もあったが

話したくなさそうにするお母さんを見て いい人ではなかったのだろうと察した

もうすぐ父親に会えるわよ

突然の言葉に お母さんが何を言ってるのか分からなかった

触れてはいけない話だと思っていたのに 急に会えると言われ 戸惑いを隠せなかったけれど

お母さんは嘘をつくような人ではないし お父さんに会える事を理解した

お父さんに会えたら 何を話そう 何をしよう? 聞きたいことだってたくさんある

色々考えることはあるけれど まずはお帰りなさいって伝えたいな

*ガチャン
鍵の開く音が聞こえ

私は急いで 玄関へと向かう

お母さん

おかえりなさい

ただいま

お母さんの後ろには見慣れない男性が立っていた
目が合った瞬間 全身で感じる

この人が()()だと

えっ…と、はじめまして 理沙ちゃん、だよね?

今まで本当に申し訳なかった

深々と男性は頭を下げる


会える嬉しさがある反面 心配もあった

お母さんが言葉を濁すぐらいだから 最低な人だと思っていた

なのに この人は私の心の壁を いとも簡単に崩した

何十年も私たちを放置してきたことを 全て許してしまえるほどに

頭…上げてください

私の言葉にゆっくりと頭を上げる
お帰りなさい……お父さん
…ありがとう
ご飯の準備 出来てるので上がってください

お母さんにも声をかけ 私は一足早く リビングへと向かう


()()()()()と名前を呼ばれただけなのに 嬉しくて頬が緩む

優しそうな人でよかった これから3人幸せに暮らしていけるんだ…

いただきます
食事が進むも お父さんは強張った表情のままで
…口に合わなかったですか?
味付けを失敗してしまっただろうか?

ちゃんと火が通ってなかっただろうか?

いや!そんなことないよ

少し緊張してて

良かった…

口に合わないのかと心配しちゃいました

私が教え込んだのよ?

不味いなんて言わせないわ

料理、できるんだな

あら

私みたいな女は料理できないと思われているのかしら?

あ、いや

そういうわけじゃ…

食事の時に 会話があるのはいつぶりだろう

家族で食事を取れることに 思わず笑みがこぼれる

ふふ
ご機嫌ね
あ、えっと…

こうやって家族で食事できるのが嬉しくて

…そうね

親子のコミュニケーションなんてこれっぽちも出来てはいないだろうけれど

私の為に仕事を頑張ってくれていることも 不器用だけれど愛情を持ってくれていることも 分かっているよ

だから そんな顔をしないで お母さん

お母さん 先にお風呂入ってくるね
ええ 分かったわ
軽い足取りで 私はお風呂場へと向かう

お父さんが帰ってきてから お母さんも優しい

家族って素敵

~♪
浮かれ気分で お風呂に入って

上がったら2人と何を話そう

家族3人でどこに出かけよう


なんて 考えていたのも束の間

幸せは一瞬で崩れ去る
ふざけないで!??!

*ガタッ


お風呂から上がり 2人がいるリビングのドアを開けようとした時だった

お母さんの大きな声が響く

他に女をつくって 子供を孕ませたからと 私をいとも簡単に捨てたくせに

ですって?

私とあなたの関係があったのは あの女より 何年も前からなのよ

それなのに…それなのに!!!!

麻弓 落ち着いてくれ…

落ち着けですって…?

誰のせいで…っ!!

他の女性?子供?

心がざわつく単語に居ても立っても居られなくなり

私は扉を開く

…お母さん?
振りむいたお母さんは見たことのない表情をしていた

声を荒げるなんて 一体何があったの?

私たち 家族3人 幸せになれるんじゃないの?

前言撤回よ

理沙にもすべてを話すわ

冷たい空気の中 私はゆっくりと椅子に腰を下ろす

彼があなたの父親 奥村 遼

十数年前 私との関係があったのにも関わらず 他の女を孕ませ 私たちを捨てた張本人よ

奥村…?
おい 麻弓…
黙ってて!!

理沙を授かったあの日 すごく嬉しかったのを覚えてる...

妊娠しにくい体質だったから諦めていたけれど 子供を授かれたことに感謝したわ

一刻も早く報告したくて その日に遼を家に呼んだの

お母さん…

けど報告をした時 遼の表情が一変した

互いに望んだ妊娠だと思ってたのに 違ったのよ

ねぇ あの時なんて言ったかしら?
お父さんを見つめるが 気まずそうに目を逸らす
忘れたわけじゃないでしょう?

………麻弓とは別れたいんだ 子供を堕せとは言わない 養育費もしっかり払う

それに この子が大きくなったら 家族として過ごしていくことを約束する

そうね?そうよ!

何言ってるか 理解できなかったわ でも私は別れることを選んだ

お腹の子を守れるのは私だけだったから

慶子のお腹にも 子供がいたんだ…
ねぇ あなたの愛しい奥さんの娘の名前

理沙に教えてあげなさいよ

…?

お父さんは言いたくないのか 口を閉ざしたままで

でしょう?
…う、そだ
お風呂で温まったはずの身体が冷えていくのを感じる
奥村 の名前を聞いたときに感じた違和感

まさか、だよね?そんな事ないよね?お父さん

…本当だよ

君と同じ学校に通ってる 奥村 藍 が俺と慶子の娘…だよ

嘘だと言ってほしかった

目の前が真っ暗になるような感覚に襲われる

ハッキリ見えていた お父さんの顔が徐々にぼやける

藍ちゃん…と ってこと…?
…受け入れにくいかもしれないけれど その通りだよ
ご、ごめんなさい…

理解が追いつかないから 部屋に戻るね…

私は立ち上がり 部屋へと向かう

足に力が入らない

枕に顔をうずめ ぐちゃぐちゃな思考をどうにかしてまとめようとする
奥村…藍

私のクラスメイトで 親友の藍ちゃん

初めてあった時から 何故だか他人に思えなくて 私たちはすぐに意気投合した

その藍ちゃんが()()だったなんて信じられるだろうか?

…藍ちゃんは知っていたのかな

父親がいないことを藍ちゃんに話したことがあるが

知っていたのなら どんな気持ちで私の話を聞いていたのだろう

父親がいないことをあざ笑っていた?選ばれなかった私を見下していた?

…可哀想だと、思っていた?

…悪い、冗談だよね きっと

そうであってほしいと願うしかなかった

どれだけ考えても頭の中はぐちゃぐちゃで

…寝よう

布団にもぐり 目を瞑る


どうか どうか、夢でありますように
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登場人物紹介

奥村 遼(おくむら りょう)


真面目でストイックな性格

娘の藍をとても可愛がっている

事の発端となる人物

奥村 慶子(おくむら けいこ)


少し抜けているところもあるが

面倒見が良くしっかりしている一面も

奥村 藍(おくむら らん)


遼と慶子の娘

両親が大好き

顔は遼だが性格は慶子似

泉本 麻弓(いずもと まゆみ)


しっかり者の仕事人間

娘の理沙のことは好きだが 仕事ばかりだったため

あまり構ってあげられてないことを気にしている

泉本 理沙(いずもと りさ)


麻弓の娘

母の事は嫌いじゃないが どう接して良いかわからない

真面目な性格で麻弓にそっくり

芦塚 真人(あしづか まさと)


慶子の部下

爽やかイケメンの好青年

慶子を慕っている

?? 歩乃佳


??と??の娘

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