変化../遼

文字数 2,750文字

仕事は終わったわ

帰るわよ

…嗚呼
分かっていたとはいえ 気が重い

何よ?

約束していたんだから、準備期間はあったはずよ

…そうだな
娘も待ってるわ

早く行きましょう

()

*ガチャン

と音をたて 玄関の鍵が開く

お母さん

おかえりなさい

ただいま とだけ伝えると麻弓は足早に部屋へと向い

その様子を寂しそうに女の子は見つめていた

俺に気が付き じっとこちらを見つめる姿は

麻弓に似ているものの 幼さを感じる

えっ…と、はじめまして 理沙ちゃん、だよね?

今まで本当に申し訳なかった

俺は頭を下げる
頭…上げてください

女の子の言葉にゆっくり頭を上げると

お帰りなさい……お父さん
と照れくさそうに笑う
…ありがとう

酷いことを言われる覚悟でいたが

口から出た言葉に拍子抜けする

ご飯の準備 出来てるので上がってください

そう言い 足早に奥の部屋へと消えていく

姿が見えなくなったことで 張りつめていたものが一気に緩み

その場へとしゃがみ込む

どうしたの?

気分でも悪い?

…いや、何でもないよ

部屋から出てきた麻弓に声をかけられ

立ち上がった時だった

あなたのもう1人の娘

キレイに育ったでしょう?

…そう、そうだ

あの女の子は()()()()()()

…いただきます

目の前に並べられた食事はどれもおいしそうな匂いを漂わせている

こんな気まずい空間でなければ もっと箸も進むのだが…

…口に合わなかったですか?
不安そうにこちらを見つめる女の子

いや!そんなことないよ

少し緊張してて

良かった…

口に合わないのかと心配しちゃいました

安心そうに微笑む女の子

私が教え込んだのよ?

不味いなんて言わせないわ

料理、できるんだな

あら

私みたいな女は料理できないと思われているのかしら?

あ、いや

そういうわけじゃ…

ふふ
ご機嫌ね

あ、えっと…

こうやって家族で食事できるのが嬉しくて

この言葉に胸が締め付けられる

ずっと寂しい思いをしてきたのだろう

食事を終え 女の子はお風呂へと向かう
理沙があんな風に微笑んだのは 久々な気がするわ
…そうか 良かった

色々 考えてるところ悪いのだけれど

これから3人で暮らしていくのだから シャキっとしてもらえるかしら?

それに何を不安に思っているのかは分からないけれど 理沙に全てを話すつもりはないわ

3人…か

いつまで口を閉ざすつもり?

それに向こうの家族とは どう話をつけているのかしら

俺にもう1つの家庭があり 娘がいることなんてあの2人は知らない

それに 俺は知らせるつもりもなかった

慶子たちとの 関係を終わらせる気はない
…は?
麻弓の顔が歪む

家族として暮らしていく、と

あの日の俺はお前に約束をした

そうよ…そう言う約束よね?

あなた…今 なんて言ったの?

そう簡単に はい、さようなら なんて出来ないだろ

何十年も共にしてきたんだ

おかしいことを言っているのは分かる

散々放置してきた 彼女を目の前に 今の家族が大事だなんて

ふざけないで!??!
冷静な彼女が声を荒げるのを聞いたのは初めてだった

他に女をつくって 子供を孕ませたからと 私をいとも簡単に捨てたくせに

何十年もですって?

私とあなたの関係があったのは あの女より 何年も前からなのよ

それなのに…それなのに!!!!

麻弓 落ち着いてくれ…

落ち着けですって…?

誰のせいで…っ!!

…お母さん?
不安そうにこちらを見つめる女の子

前言撤回よ

理沙にもすべてを話すわ

自棄になる麻弓は止まることなく

彼があなたの父親 奥村 遼

十数年前 私との関係があったのにも関わらず

他の女を孕ませ 私たちを捨てた張本人よ

と言葉を選ばないため 止めようとするが
黙ってて!!
と叫ぶ声に身体が止まる

理沙を授かったあの日 すごく嬉しかったのを覚えてる...

妊娠しにくい体質だったから諦めていたけれど 子供を授かれたことに感謝したわ

一刻も早く報告したくて その日に遼を家に呼んだの

互いに望んだ妊娠だと思ってたのに 違ったのよ

ねぇ あの時なんて言ったかしら?

覚えているとも

忘れるはずがない

十数年前
遼 仕事が終わったら すぐに家に来てちょうだい

話したいことがあるの

俺も話したいことがある とだけ送り

仕事を終えた後 重い足取りで彼女の家へと向かう

*ピンポーン

いらっしゃい

さあ 早く入って

部屋に入るなり 麻弓は嬉しそうに はいと封筒を渡す
…これは?
いいから 中を見てほしいの

と促されるままに封筒を開くと

そこにはエコー写真が入っていた

みて!私たちのあかちゃ………

笑顔にあふれていた麻弓の顔は途端に崩れていく

……どうして 浮かない顔をしてるの?
何も言わない俺に麻弓が肩を掴み揺らす

…ねぇ 何か言ってよ

まさか堕せ、なんて…言わないわよね?

………麻弓とは別れたいんだ 子供を堕せとは言わない 養育費もしっかり払う

それに この子が大きくなったら 家族として過ごしていくことを約束する

そうね?そうよ!

何言ってるか 理解できなかったわ でも私は別れることを選んだ

お腹の子を守れるのは私だけだったから

慶子のお腹にも 子供がいたんだ…
ねぇ あなたの愛しい奥さんの娘の名前

理沙に教えてあげなさいよ

…?
教えられる訳がない

娘は女の子と…

()でしょう?
…う、そだ

…本当だよ

君と同じ学校に通ってる 奥村 藍 が俺と慶子の娘…だよ

俺も麻弓との娘が一緒の高校だとは思っていなかったし

藍から泉本の名前を聞いた時は驚きを隠せなかった

藍ちゃん…と()()ってこと…?
…受け入れにくいかもしれないけれど その通りだよ
ご、ごめんなさい…

理解が追いつかないから 部屋に戻るね…

子供たちに罪はないから 教えるつもりはなかった

2人が仲いいのは 藍からも聞いていたし

知ってしまえば関係は壊れてしまうだろうから

そうだわ

向こうとの家族を続けたいのなら 家に呼んだらどうかしら?

ああでも 一夫多妻制は認められてないわね

奥さんとは綺麗さっぱりに別れてもらって 娘は養子に迎えましょうか?

あまりの提案に顔が歪む

自分の娘の反応をみても こんなことがなぜ言えるのだろうか

なんで…なんでそんな事が言えるんだ…?
なんで?その頭で考えてみなさいよ
と麻弓はリビングを後にする

頭が痛い

自分が蒔いた種だが 事を大きくするつもりはなかったのに

藍と慶子に伝わることがないよう どうにかしなくては

…そうだ
俺は慌てて携帯を見る

様子が少し変な感じしたけれど、大丈夫?

何かあったなら相談してください

お仕事は無理せずにね

お仕事が忙しいのかしら?

働いた後は疲れているだろうから、元気が出る様においっしい料理を作っておくわね

帰りが遅くなるのであれば、連絡ください

慶子 5時間前

不在着信 3件


着信履歴にメッセージ

どれだけの心配をさせてしまったのだろう

帰ろう
俺はそっと麻弓の家を出て 自宅へと帰るのだった
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登場人物紹介

奥村 遼(おくむら りょう)


真面目でストイックな性格

娘の藍をとても可愛がっている

事の発端となる人物

奥村 慶子(おくむら けいこ)


少し抜けているところもあるが

面倒見が良くしっかりしている一面も

奥村 藍(おくむら らん)


遼と慶子の娘

両親が大好き

顔は遼だが性格は慶子似

泉本 麻弓(いずもと まゆみ)


しっかり者の仕事人間

娘の理沙のことは好きだが 仕事ばかりだったため

あまり構ってあげられてないことを気にしている

泉本 理沙(いずもと りさ)


麻弓の娘

母の事は嫌いじゃないが どう接して良いかわからない

真面目な性格で麻弓にそっくり

芦塚 真人(あしづか まさと)


慶子の部下

爽やかイケメンの好青年

慶子を慕っている

?? 歩乃佳


??と??の娘

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