変化../麻弓

文字数 2,137文字

仕事は終わったわ

帰るわよ

…嗚呼

何よ?

()()()()()()約束していたんだから、準備期間はあったはずよ

…そうだな
煮え切らない返事に苛立ちを覚えるが

あれだけ待ち遠しかった日がやっときたのだから、と

私は深呼吸をする

娘も待ってるわ

早く行きましょう

*ガチャン

と音をたて 玄関の鍵が開く

お母さん

おかえりなさい

ただいま
挨拶を済ませ 私は足早に自室へと向かう

仕事ばかりの私は 娘との関わり方が分からない

*コンコンコン
お母さん

ご飯の準備 出来てるよ

ええ

行くわ

軽く身支度を済ませ
部屋を出ると 遼が玄関でしゃがみ込んでいた
どうしたの?

気分でも悪い?

…いや、何でもないよ
とゆっくり立ち上がる遼に私は耳打ちをする
あなたの()()1()()()()

キレイに育ったでしょう?

青ざめる遼に微笑み

私はリビングへと向かった

まずは食事を取りましょう

話したいことは色々あるけれど、ご飯が冷めてしまってはもったいないから

食欲をそそられる匂いが リビングに漂う
いただきます
…いただきます
いただきます
強張った表情のままの遼
…口に合わなかったですか?
いや!そんなことないよ

少し緊張してて

良かった…

口に合わないのかと心配しちゃいました

私が教え込んだのよ?

不味いなんて言わせないわ

料理、できるんだな
あら

私みたいな女は料理できないと思われているのかしら?

あ、いや

そういうわけじゃ…

ふふ
ご機嫌ね
あ、えっと…

こうやって家族で食事できるのが嬉しくて

…そうね
10年以上 私と理沙は待ち続けていた

この人が帰ってきてくれることを

女手一つ 不自由なく暮らせるようにと 仕事に打ち込んだ

仕事ばかりで 娘を構ってやることが出来なかったが

これからは()()3()()幸せに暮らしていける

そう信じている

お母さん 先にお風呂入ってくるね
ええ 分かったわ

私の前で軽く俯いたままの彼

理沙があんな風に微笑んだのは 久々な気がするわ
…そうか 良かった
居心地の悪そうな遼に 私は会話を続ける
色々 考えてるところ悪いのだけれど

これから3人で暮らしていくのだから シャキっとしてもらえるかしら?

それに何を不安に思っているのかは分からないけれど 理沙に全てを話すつもりはないわ

いつまで口を閉ざすつもり?

それに向こうの家族とは どう話をつけているのかしら

少しの沈黙のあと こちらを見た遼の瞳が私を捉える
慶子たちとの 関係を終わらせる気はない
…は?
彼の思いもよらない言葉に開いた口が塞がらない
()()()()()()()()()()()、と あの日の俺はお前に約束をした

そうよ…そう言う約束よね?

あなた…今 なんて言ったの?

そう簡単に はい、さようなら なんて出来ないだろ

何十年も共にしてきたんだ

ふざけないで!??!
*ガタッ

他に女をつくって 子供を孕ませたからと 私をいとも簡単に捨てたくせに

()()()()ですって?

私とあなたの関係があったのは あの女より 何年も前からなのよ

それなのに…それなのに!!!!

麻弓 落ち着いてくれ…
落ち着けですって…?

誰のせいで…っ!!

…お母さん?
振りむいたそこには 怯えた表情の理沙が立っていた
前言撤回よ

理沙にもすべてを話すわ

理沙はゆっくりと椅子に腰を下ろす
彼があなたの父親 奥村 遼(おくむら りょう)

十数年前 私との関係があったのにも関わらず 他の女を孕ませ 私たちを捨てた張本人よ

奥村……?
おい 麻弓…
黙ってて!!

理沙を授かったあの日 すごく嬉しかったのを覚えてる...

妊娠しにくい体質だったから諦めていたけれど 子供を授かれたことに感謝したわ

一刻も早く報告したくて その日に遼を家に呼んだの

お母さん…

けど報告をした時 遼の表情が一変した

互いに望んだ妊娠だと思ってたのに 違ったのよ

ねぇ あの時なんて言ったかしら?
遼は俯き口を開こうとしない
忘れたわけじゃないでしょう?

………麻弓とは別れたいんだ 子供を堕せとは言わない 養育費もしっかり払う

それに この子が大きくなったら 家族として過ごしていくことを約束する

そうね?そうよ!

何言ってるか 理解できなかったわ でも私は別れることを選んだ

お腹の子を守れるのは私だけだったから

慶子のお腹にも 子供がいたんだ…
ねぇ あなたの愛しい奥さんの娘の名前

理沙に教えてあげなさいよ

…?
遼は再び口を閉じる
()でしょう?
…う、そだ

…本当だよ

君と同じ学校に通ってる 奥村 藍 が俺と慶子の娘…だよ

藍ちゃん…と()()ってこと…?
…受け入れにくいかもしれないけれど その通りだよ
ご、ごめんなさい…

理解が追いつかないから 部屋に戻るね…

ふらふらと歩きながら 理沙は部屋へと戻っていく
そうだわ

向こうとの家族を続けたいのなら 家に呼んだらどうかしら?

ああでも 一夫多妻制は認められてないわね

奥さんとは綺麗さっぱりに別れてもらって 娘は養子に迎えましょうか?

なんで…なんでそんな事が言えるんだ…?
なんで?その頭で考えてみなさいよ
リビングに遼を置き去りにし 私は自室へと戻る
…2度と離さないんだから
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登場人物紹介

奥村 遼(おくむら りょう)


真面目でストイックな性格

娘の藍をとても可愛がっている

事の発端となる人物

奥村 慶子(おくむら けいこ)


少し抜けているところもあるが

面倒見が良くしっかりしている一面も

奥村 藍(おくむら らん)


遼と慶子の娘

両親が大好き

顔は遼だが性格は慶子似

泉本 麻弓(いずもと まゆみ)


しっかり者の仕事人間

娘の理沙のことは好きだが 仕事ばかりだったため

あまり構ってあげられてないことを気にしている

泉本 理沙(いずもと りさ)


麻弓の娘

母の事は嫌いじゃないが どう接して良いかわからない

真面目な性格で麻弓にそっくり

芦塚 真人(あしづか まさと)


慶子の部下

爽やかイケメンの好青年

慶子を慕っている

?? 歩乃佳


??と??の娘

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