幻想の島⑤

文字数 1,267文字

 なんとか幻想島へと渡りきったと同時に砂の道は完全に消えてしまった。


 島の砂浜で膝に手を当て中腰になり、荒れた息が整うのを待つ。


 結構な時間ハァハァしていたが、もうここは目的地なんだという想いで心に余裕が出来ていた。

 ――って、あれ?
 なんだかデジャブのような気持ちだけど……気のせいか。

 背筋を伸ばし、ゆっくりと見上げると、岩、崖、続いて木々が見えた。


 崖を登り切った場所にはハマゴウが群生し、小さな紫色の可愛い花を付けていた。


 わたしはハマゴウの間を進み、トリネコの林に入っていった。


 暫く森を行くと上へと聳える崖に突き当たったので、崖沿いに周囲を歩いていると、一箇所あきらかに張り出した場所があり、錆びついた鉄の扉を見つけた。


 扉の上には野生の小猿がちょこんと座っている。

 ――って、あの小猿どこかで……

 私は小猿に近づくと正面から目を合わせてみた。


 小猿は言う。

この先に進みたいならオイラを連れて行かないといけない決まりだぜ

 なんだか狐につままれた気分だが、なぜか動揺はしていない。


 ここで何か言わないといけない気がする。

そ、そう……。わかった……

 精一杯そう口にした瞬間、私の心臓は早鐘のようにドクドク鳴り響いた。


 小猿が喋った事よりも自分が喋ったことに動揺するなんて。


 私は何時から家族以外と喋っていなかったんだっけ。


 鉄の扉に手をかけ引くと、錆びてるとは思えないほどスーッと扉が開いた。


 中は下に降りる階段が続いている。


 私はリュックの中からホームセンターで買った、最大50Mまで光が届くと書いてあったLEDペンライトを取り出し、小猿と一緒に階段を降りていった。


 暫く降りると小さな部屋に辿り着いた。


 正面には【右、ショートカット 左、通常ルート】と書かれた立て札があり、部屋の左右には下に降りる階段がある。


 あぁ、もう。思いっきり人工的だわ。


 こんな所にいつまでもいられない、帰ろう。


 私は降りて来た階段に足を乗せ、元来た道へと逆戻りを始めた。

あーあ、またやり直しだよ
 小猿が何か言ったと同時に視界がぼやけ、次いで暗転した。

 私は鉄の扉に手をかけ引くと、錆びてるとは思えないほどスーッと扉が開いた。


 中は下に降りる階段が続いている。


 暫く降りると小さな部屋に辿り着いた。


 正面には【右、ショートカット 左、通常ルート】と書かれた立て札があり、部屋の左右には下に降りる階段がある。


 ――あれ?
 なんだろう、ここで何か考えないといけないような……
さて人間、アンタならどっちに降りる?

 小猿はちょっと馬鹿にしたように私を挑発してくる。


 生粋のファンタジー愛好家舐めんなよ!


 舌切雀だって小さな葛篭が正解で、湖の精霊様だって鉄の斧が正解なんだ。


 一見、左が正直者ルートの正解ぽいけど、実際問題近道が在るのが解ってて遠回りなんかするかな?


 でもここでそんな屁理屈言っても仕方無いよね。


 私は左の普通ルートへの階段に足を乗せた。

キャッキャッキャッ、なんて要領が悪いんだろうね
 小猿が何か言ったと同時に視界がぼやけ、次いで暗転した。
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