幻想の島③

文字数 942文字

 東北新幹線で新花巻まで行き釜石線に乗り換え、さらに釜石から山田線に乗り換えて大槌へ、そしてタクシーに乗って大槌湾へと、
本当に数年間引き篭もっていたのか?
 と疑われそうな行動力でここまで来てしまった。
 幸い引き篭もり中もルームランナー的な物で健康には気を使っていたので、体力がそれほど衰えていなかったのが良かった。
 力こぶの反対側のたるみがちょっと気になる程度だ。


 あはは……

 大槌駅には赤地に白で『歓迎』とかかれた垂れ幕があったが、こんな寂れた駅に一体誰が誰にだろう。
 ……あ、ひょうたん島か。

 タクシーを降りた私は周辺地図を片手に幻想島へと向かった。


 一応、来る前にホームセンターで必要になりそうな物を買ってきたので背中にはリュックを背負っている。


 漁師さんの船を遠目に見たり、

潮風が気持ち良い~!

と、なんとなくポーズを付けたり、送る宛も無いのにスマホで風景撮ったりしながら歩く。


 震災で大変だったらしい場所で何やってんだろ。


 ついでだから弁天神社に寄って蓬莱島を見たほうが良かったと少し後悔。

 吉里々々第28地割は広く、目的の場所に付くのに随分掛かった。


 海の中に幻想島らしき島もちゃんとある。


 っていうか、砂浜から渡れると思ってたら目の前は崖だよ?

 (降りる? 降りれる?)


 ……降りてみよう。

 崖と言っても火サスで人が飛び降りる様な絶壁じゃなくて、岩でゴツゴツしてるが意外となだらかなスロープが続いている。


 リュックから軍手とゴム長を取り出して装着し、ついでに髪も束ね直す。


 私は今、冒険者。


 数々の試練(外に出たり電車乗ったり)を経て苦難の果てに、遂にここまで辿り着いたのだ――。

 私は何とか気持ちを盛り上げてはいるが、実のところ途方に暮れていた。


 勢いでここまで来たものの、どうやって島まで行くの?


 それ以前に勝手に行っても怒られない系の場所?


 岩の上でしばし瞑想に耽る。

 …… …… ……。
 すると私の前に脳内仙人が現れ、解決策を教えてくれた。
 ほっほっほ。あの島に渡るには干潮の刻を待つと良い。


 干潮時に僅かな時間だけ島へと続く道が現れるじゃろう

 そう言って仙人は静かに歩き去って行った。


 ありがとう脳内仙人、とりあえず他に方法も思い付かないから干潮を待ってみるよ。

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