異世界漫遊譚

文字数 1,491文字

邑暉国の若き皇帝――柚帝に命じられ後宮で起こった摩訶不思議な事件を解決したのは、つい先日のこと。
妹の駙馬になれ!
と、迫ってくる八歳児から逃げ出し国境まで来たが、ここで馬が駄目になり近くの村まで歩いて向かう途中である。
因みに柚帝の妹君である皇女様は四歳。
もし受けたとすれば、前世ならロリコンどころの騒ぎではない。
関尋(グァンジン)、足が痛い
我慢しろ、お前はどうも体力が足りない
俺に文句を言ってきたのは李 楊玥(リ ヤンヘイ)。
元々は女だてらに聖杜国で文官をしていたが、何の因果か運命か、今は俺の旅に同行している。
楊玥はすぐ関尋に甘えようとする。その貧相な身体では科を作ろうとも関尋様は靡きませんのに
なんですって!
あら。痛いところを突かれて悔しいのですか?
蘭雛こそ、そんな不修多羅な身体じゃ関尋は喜ばないわ
女狐!
雌豚!
ふたりともよせって。俺は身体じゃなく心を満遍なく愛せる男だ、知ってるだろ?
ええ…
蘭雛は頬を朱に染め熱い眼差しを向けてくる。

楚 蘭雛(チュ ランビ)は色加美国の第三皇女であったが、皇宮内での騒動に巻き込まれた末、毒殺されかけた過去を持つ。そのとき色々あって助けたのだが、家出同然で俺のあとを追ってきた。

急ぐ旅でもないし、ここいらで休憩でもするかと丁度良い木陰を探したのだが生憎と見つからない。さてどうするかと考えあぐねていると、

関尋、妖の気配――近づいてくるわ
楊玥は札術を使え、警戒用に何体もの式神を周囲へと放っている。そのうちの一体に反応があったのだろう。
五体…七体…大きいのも一体いるわね
国中に結界の張られている邑暉国では珍しいな。こんな辺境までは効果が及んでないのか
それより、備えませんと
蘭雛がその懐より幾本もの神楽鈴を取り出し、地面へと投げ刺して行く。彼女もまたただの温室育ちというわけではない。禁忌とされる闇属性の黒魔術を使えるのだ。あわよくば兄たちを殺してやろうと覚えたらしいのだが、この世界の女たちは物騒すぎる。夜のしおらしさからは全く想像できない。

俺は背中に挿していた六尺五寸の長剣を抜き放ち、正眼へと構え…待つ。
やがて木々のざわめきを伴い姿を現したのは無数の土妖。龍脈付近の土塊がその膨大な霊力に当てられ変化した妖怪だ。その姿は泥で構成されており、不安定なのか絶えず体表面の泥が地面へと滴り落ちている。
そして土妖たちを指揮するよう、最後尾につけているあれは――
饕餮(トウテツ)か
巨大な牛に似た人面種。頭には長く歪に伸びた角を持ち、口からは虎を思わせる顎牙が覗いている。爪は人のようでもあり蹄のようでもあり、どちらにせよその凶悪な鈎爪で撫でられれば人間なぞひとたまりもないだろう。
札術、縛!
禁忌、涅狐!
楊玥の足元から伸びた幾本もの縛鎖が土妖たちに絡まり、その行動を阻害する。同時、蘭雛の背後に現れた六方魔法陣から涅色の狐たちが飛び出し動けなくなった土妖に襲いかかった。
雑魚は私達が!
親玉は関尋、お願い!
おうともよ! 煉気解放!
紅の霊気を纏った俺は風を置き去りにする速度で駆け出し、饕餮に肉薄する。
絶技、奇門遁甲!
六尺五寸の長剣が光り輝き、軌道を視認させない必殺の斬撃を叩き込んだ。体が左右に泣き分かれた饕餮は地響きを立てながら倒れ、やがてそれは霊気の粉となり霧散した。
関尋!
関尋様!
たとえ邪神級と呼ばれる妖でも俺にかかればこんなもんだ。
柚帝に報告して褒美を貰いましょう!
関尋様の素晴らしさがまたこの大陸に響き渡るのですね
おいおい、せっかく逃げてきたというのに。ロリのお守りはもう懲り懲りだ。しかしさすがは俺の認めた女たち。びっくりするほどに抜け目がない。
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