幻想の島④

文字数 1,313文字

 左手首のBABY-Gが6:30を表示した頃、目の前の海に浅瀬が現れ始めた。


 浅瀬は徐々に砂の道に変わり、幻想島へと一直線に続いている。


 私は岩から飛び降り一目散に島へと駆けた。


 だいぶ寝不足気味だが気にしない。

 今まで数年間、一日10時間以上寝てたんだから寝溜めできてるハズ!

 駆けて駆けて転んで駆けて、息が切れて休んでまた駆けて。


 そうしているうちに踏み出した足元からピチャッという水の音が聞こえ出した。


 砂の道が海に消えようとしている。

 島まではあと少し、頑張れ私!

 なんとか幻想島へと渡りきったと同時に砂の道は完全に消えてしまった。


 島の砂浜で膝に手を当て中腰になり、荒れた息が整うのを待つ。


 結構な時間ハァハァしていたが、もうここは目的地なんだという想いで心に余裕が出来ていた。


 背筋を伸ばし、ゆっくりと見上げると、岩、崖、続いて木々が見えた。


 どうやら崖を登らないといけないようだ。


 私はクライマーじゃ無いので、岩と岩が重なったところや、比較的足場が良さそうな所を選んで上へと登っていった。


 案外簡単に登れるものね。

 意外とこういうのに才能があるのかもしれない。


 崖を登り切った場所にはハマゴウが群生し、小さな紫色の可愛い花を付けていた。


 ハマゴウの後ろにはトリネコの林があり、幹にはカラスウリが橙色の実を付けているのが見て取れた。


 この先に危険が有るかも知れないので、リュックから折りたたみ式の剣スコを取り出し、迎撃準備を整えた。


 普通に考えれば日本の小さな離れ小島なんかに、大型肉食獣なんか居ないと解ってるけど、万一何かあってからじゃ遅いからね。


 わたしはハマゴウの間を進み、トリネコの林に入っていった。

 林? いやコレは森ね、林と森の線引が判らないけど私的には森ね。


 だってトリネコ以外にもコナラやクヌギも生えてるし。

 私は自宅警備の際にネットで培った植物の知識を総動員して、島の植物を分析していた。


 暫く森を行くと上へと聳える崖に突き当たったので、崖沿いに周囲を歩いていると、一箇所あきらかに張り出した場所があり、錆びついた『鉄の扉』を見つけた。


 扉の上には野生の小猿がちょこんと座っている。


 あぁ、やっぱり騙されたんだわ。

無人島じゃなかったのか……

 何に期待をしていたのかも今となっては良く覚えていないが、とにかく期待が大きかっただけに、扉を見つけた時の落胆も大きかった。


 私は扉の前でヘナヘナと座り込んでしまった。


 座り込んだ私の前に小猿が降りてきて、こう言った。


 言った――?

ニンゲン、ニンゲン、オレサマオマエマルカジリー

 何だよまったく!


 なんだかムシャクシャしてた私は、グーで小猿の頭を殴ってやった。

 痛いって!


 冗談が通じないな~。


 この先に進みたいならオイラを連れて行かないといけない決まりだぜ

 この子猿は何を言っているのか。


 この先って鉄の扉の事でしょ?


 私に開けろってか?


 ていうか、私に会話を求めて来るなんていい度胸じゃない!


 こちとら数年来のコミュ障だぞ、本職舐めんじゃねー!


 ここが無人島じゃ無いなら私の用は無くなったのよ!

 私が黙ったままでいると急に視界がぼやけ、次いで暗転した。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色