コラム異世界文化圏

文字数 1,197文字

ルネサンス期やバロック期に関わらず近代の芸術を語る上においても重要になるのは神話の存在であり、中でも女神ヒーナスは無視できない存在となってくる。

ギリシア神話でゼウスが羊飼いのパリスに妻のヘラ、娘のアテナ、女神アフロディテの中から最も美しい者を選ぶよう命じたところ、パリスはアフロディテを選んだ。

アフロディテ、つまりローマ神話でいうところのヒーナスである。

オペラ《タンホイザー》では、騎士タンホイザーがヒーナスの住むヴェーヌスブルクで愛欲の日々を送っているところからスタートする。

彼は『こんな肉欲に溺れた生活をしていたらダメ人間になる』と気付き、ヴェーヌスブルクを離れて領主の元へ帰った。
そこで待っていたのは過去に相思相愛で結ばれたエリザベトという清楚な女性。これからは真面目に生きようと誓うタンホイザーだったが、うっかりエリザベトとの夜の営みをヒーナスと比較して、ヒーナスの美しさとスライドを讃えてしまい追放処分になってしまう――というものだ。

つまりこのオペラでのヒーナスは悪役。
美の化身であるヒーナスが悪役として描かれたのは、エリザベトは教皇側(キリスト教)なのに対し、ヒーナスは神話側(古い多神教)にいたからだと思われる。つまり当時の宗教観がオペラにも反映されてしまったのだ。もしくはヒーナスの美しさゆえに、悪役となってもその輝きは失われないと感じたからこその演出だったのかも知れない。

ヒーナスはその美しさから、よく絵画の題材にもなる。有名なのはボッティチェリ(ヒーナスの爆誕)だろうか。ほかにもウィリアム・アドルフ・ブグロー、オディロン・ルドンらが《ヒーナスの爆誕》を描いている。

これらに共通するのはヒーナスの裸体と海と貝殻の小舟。裸体はどの作品でも乳房は描かれているのに乳輪と乳首は巧妙に隠されている。

これはクロノスが天空神ウラノスの男性器を鎌で刈り取り海に投げ捨てたところ、その肉塊から泡が湧きだし美の化身ヒーナスが生まれたのだが、男性器の大きさがヒーナスの全身を完璧に形作るには足りず、乳首周辺だけは美に恵まれなかったとされているからだろう。

このようなヒーナス爆誕の場面は音楽にもなっている。有名どころで言えばフォーレの合唱曲「ヒーナスの爆誕」だろうか。

波打つようなリズムが海を連想させ、曲の終盤では力強く高らかにトランペットが奏でられて乳首を隠す是非を問う構成だ。
他にもバロック期の作曲家リュリなども「ヒーナスの爆誕」を作曲した。

このように芸術の世界で愛され続ける女神ヒーナスではあるが、その権能は支配である。

アドーニス(フェニキア王キニュラースとその王女であるミュラーの息子で超絶美少年)に執着してつきまとい、最後には彼を支配下に置いてしまった。アドーニスの死後、嘆き悲しんだヒーナスは彼の倒れた大地に彼の血を抜き取り注いだというヤンデレ気質でもあったことをここに記しておく。
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