勇者ハンク①

文字数 1,143文字

 ぴんぽ~ん。


 …… ……


 ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん!


 ガチャっ。

うっさいな! 居留守使ってんだ、察しろよ!
今から行くってメールしたよね? 俺、メールしたよね?
だから居留守使ってんだろっ! 用が無かったら帰れ
用があるから来たんじゃないか。そんなの当然の事だぜ

 私の名前はサツキ。


 都内のマンションに住むフリーランスのGデザイナー。


 よく上戸彩に似てるねって言われるが、男の趣味はザイル系じゃない。


 最近の悩みはブラのサイズが1ランク下がった事だが、まあ些細な問題だ。


 そして、この心臓に毛の生えたような男はハンク。


 どれだけ遠慮なく嫌味を言っても邪険に扱っても、まったく動じない稀代の空気読まない男。


 コイツと初めて出会ったのはベランダだ。私の。


 以前、深夜に物音がするのでソッとカーテンから外を覗いてみれば、一心不乱に洗濯物をポッケや口に仕舞い込むコイツがいた。


 やがて窓越しに視線が合った私に対し、奴の取った行動はサムズアップだった。


 あまりの舐められっぷりに発狂した私は痴漢撃退用スプレーとゴキジェットを併用して奴に吹きかけ、『うわ~~~』と叫ぶ口にホウ酸団子を放り込み、手慰みで作っていた王水入りガラス瓶を投げつけ撃退したのだ。


 暫く経って興奮状態が覚め『あ、さすがにやり過ぎた。死んでるかも』と思ってベランダを覗くと、そこには無傷で下着を顔に押し付けスーハーしている変態の姿があった。


 この時私は思ったのだ。


 コイツは敵に回してよい生物ではないと。


 なので『次からは連絡して玄関から入るように』と言いつけて、ベランダから突き落とした。因みにここは11階。


 それから週一のペースでコイツはやってくる。


 いつも、どーでもいい案件を携えて。

で? 今日は何の用?
聞いてくれよサツキ! 新しい盗撮方法を考えたんだ! よかっ――
みなまで言うな。殴るぞ
足! 殴ってないけど足がめり込んでる!
 ホント、毎回毎回どーでもいい案件ばかり持ってきやがって。
そもそも盗撮とか犯罪だろ! お前は存在そのものが犯罪だけど
産まれてきてメンゴ☆
たまにはマシな話ないの? 私もヒマじゃないんだよ
俺だって忙しいけど、盗撮は別腹だろっ!
一緒にするな変態! 帰れ、もう帰って!

 私は王治貞ゆずりの一本足打法で華麗なスウィングを決め、空いた窓から奴を打ち出した。丁度、今日は花火大会で、ドーンと大きく弾けた火花の中心で奴もドーンと大きく手足を広げてた。


 そろそろ、何か着てくるように言わないといけない。


 刹那、ピロンとスマホが鳴りメールの着信を知らせた。

”ナイスバッティング!”

 と書かれた文字を見て、私は彼を撃退するのはやはり不可能なのだと悟った。


 でも物は試し。

 来週までに劣化ウランだけは仕入れておこう。

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