第3話 負けるもんか

文字数 2,225文字

1年生初日の学校はいろんな人にお姉ちゃんのことで話しかけられたが、聞かれるたび愛想笑いだった私…


そして、その愛想笑いが良くなかったのか、女子の集団グループからパブかれた…


女子はめんどくさい…陰口や集団での精神的攻撃が得意な人の集まり…


私も女子だが…女子特有のそういうのは嫌いだった。


私は初日にして教室で1人ぼっちの時間が増えた…

学校の帰り道、1人で泣きながら帰る私。


友達たくさん作るねって言ってたのにこのザマだ…


せっかく紫色のランドセル買ってもらったのに、かわいいお洋服を買ってもらって着てきたのに…


両親にも申し訳なくて、ずっと悔しさと申し訳なさで泣きながら歩いていると、お姉ちゃんの通っている空手の道場の師範が前から歩いてきた。

おう!どうしたんだ?何かあったのか?


絵里の妹だよな?

はい。くやちいんです…ちゅよくなりだいんでず…
泣きながら、鼻声で言った私。当時よく師範は私の言ったことを理解できたなと思う。


私は我慢していた分、師範の前で大声で泣いた。


周りの通行人に師範はじろじろ見られ、困っている。

ちょ、ちょっと、俺が泣かしたみたいだろ(汗)


話聞いてやるから、すぐそこが道場だから、ちょっと着いて来てみろ。

泣きながら頷く私。


師範は道場の入口の階段に座ると、持っていた袋からお茶のペットボトルを出して私にくれた。


お茶を飲み、少し落ち着くと、今日の出来事を師範に話した。


すると師範は

お前は強くなって結局何がしたいんだ?はぶいていじめてきたやつをやっつけたいのか?それじゃあ、そいつらと何も変わらないだろ。 


絵里の妹名前は?

紗絵です。
じゃあ、紗絵いいか、お前が強くなってそいつらを武力でやっつけたとして、ケンカに強いことが、相手への復習だと思っているなら、それは良くないことだ。


時と場合によっては俺は武力が必要なこともあるとは思う。


でも強くなりたいなら、喧嘩の腕っぷしを鍛えるんじゃなくて、心を鍛えろ。


そんなくだらん奴らと同じ土俵に立つことはない。


お前は身体も心も鍛えればいい。


まぁ良くないことだが、そいつ等が武力で来たときは武力で返してやればいい。


ただし、強くなった時には大切な何かを守る時以外にはむやみに人を傷つけるのは駄目だからな!


お母さんに言って明日から学校帰りにでも、ここに寄れ。月謝はいらん。強くなれ紗絵。

はい!
家に帰ると、私はお母さんに、山本道場で空手を習いたいとお願いした。


ついでなので、テコンドーも習いたいと言った。


お姉ちゃんが習っているものとまったく同じ競技なので、私がまたお姉ちゃんの真似事をしていると思ったのか、


お母さんは少し呆れていたが、承諾してくれた。

次の日から学校帰り、私は山本道場に通い出した。


山本道場はちょっと特殊で、空手とテコンドーと柔道が習えた。曜日によって習う種目が変わるため、空手とテコンドーの私は週の半分くらいは山本道場に通った。


自分で言うのもなんだが、お姉ちゃんばかりが美人だとか可愛いとか言われるが、私も生まれつき顔は整っている方だ。


クラスで目立つような女子の集団からハブられたが、集団に属さないおとなしい子とは、お話したり、一緒に教室を移動したりしたので、初日みたくずっとボッチっていうわけではなかった。

お姉ちゃんは去年、小学5年生の時に、テコンドーのU12ジュニア選手権で日本で優勝し、世界大会でU12では世界王者となった。


空手ではU12世界大会では入賞で終わったが、将来のオリンピック強化指定選手みたいなのに選ばれていて、山本道場にも通っているが、日本代表の人が使える施設でお姉ちゃんは練習することも出来、そちらに行くことも多い為、山本道場でお姉ちゃんと顔を合わせない日もあった。

※成瀬 紗絵 小学1年生


山本道場で稽古中

道場に通い続けた私は次第に精神的にも強くなっていく。


初日は体力的についていけなかった…


1ヶ月も経つ頃には1年生ながら、体力が持つようになってきた。


周りの大人の習っている人達には小さいのに偉いねとか凄いねとか、褒めてもらえるようになったが、お姉ちゃんは国の強化指定選手なのは道場でも有名らしく、さすが絵里の妹っていう言葉が必ずつきまとった。


精神的に少しは強くなったとはいえ、この頃の私は、まだ、劣等感には勝てなかった。

私のことを絵里の妹っていう目で見ないでくれた人が道場にたった1人だけいた。


若き頃の千鶴さんだ。

千鶴さんはのちに師範の奥さんとなる人だが、この時師範は28歳、千鶴さんは25歳。


すでに交際していたのかは、わからないが、千鶴さんに話しかけられるとデレデレしていた師範のことを今でも覚えている。


強面な顔の師範だが、見た目とは違い紳士的で、根本的に優しいのは今も昔も変わらない。


若き頃の千鶴さんは、大人の優しいお姉さんな感じで、小さくて、弱々しい当時の私をいつも気にかけてくれ、お姉ちゃんのことは知っているはずなのに、他の人と違い、私にお姉ちゃんの話をしてきたことはなかった。


私が道場での初稽古の日も名前を聞かれると成瀬 紗絵と答えたが、妹さんだねって言われなかった。


紗絵ちゃん一緒に頑張ろうねってそう言ってくれた。

千鶴さんは当時、会社員でOLだった。


当時の山本道場は会社帰りに汗を流しに来る人も多く、今より遅くまでやっていた。


小学1年生の私には、当時の師範の心を鍛えろっていうのはあまり理解できなかったが、「負けるもんか」っていう気持ちだけで、がむしゃらに稽古に励んでいた。
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登場人物紹介

今作品の主人公 成瀬 紗絵(なるせ さえ)。


本編では主人公 成瀬 紬の叔母

成瀬 絵里(主人公 成瀬 紗絵の姉)。


本編では主人公 成瀬 紬の母親。


成瀬 健一(なるせ けんいち)。紗絵、絵里の父親。

成瀬 亜希子(なるせ あきこ)。紗絵、絵里の母親。

山本 登(やまもと のぼる)。


姉の絵里が通う道場の師範。後に紗絵も通う道場。

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