第14話 お姉ちゃんの反抗
文字数 2,213文字
お姉ちゃんは学校の推薦の校内選考はもちろん何の問題もなく通り、これから先は推薦の選考を1次、2次、3次と受ける予定らしい。
もし、お姉ちゃんが横浜学院高校(通称横学)に合格すれば丸山台中学校では創立65周年の歴史の中でたったの2人しかいない横学合格者の仲間入りをする。
そして横学に入れば間違いなく人生エリートコースが約束される。
そのままお姉ちゃんが横学でも成績上位者なら東大にも入れるかもしれない。
成瀬家の功績として語り継がれるであろうことだ。
私達のお母さんは普通の高校を卒業後、地元の名古屋の大学へ進学し、卒業後、東京の会社に就職し、お父さん(成瀬 健一)と出会って交際し結婚という流れだったらしい。
旧姓は川村 亜希子。成瀬家へ嫁いでから、世間体を少しだけ気にするようになったらしい…
それは成瀬家の親族たちが前にお姉ちゃんが本人達を前にして言ったようにお金や権力、社会的地位に縛られて生きているから、その中に入ってしまったからなのだと思う。
お姉ちゃんが妊娠していることを夕飯の時に突然言った…
私はどうしていいかわからないから、うつむいて、聞き耳だけたてる…
お父さんがお姉ちゃんに怒った姿を初めて見た。
私はお父さんにもお母さんにもたまに宿題をしないで遊びに夢中になってたり、テストの点数がひどかったりすると普通に怒られたりするから、怒られ慣れてるっていうのも変だけど、
お姉ちゃんは成績優秀、スポーツ万能、破天荒な所はたまにあるけど、怒られてる姿は見たことがない…
お姉ちゃんは父の日も母の日も自分のお小遣いを一生懸命貯めて、節約してプレゼントしていたりした。
私は、お姉ちゃんのように一生懸命貯めて節約してとかあんまり得意じゃないので、すぐに好きなものを買って散財…
そんな私を見て、お姉ちゃんは自分が一生懸命お小遣いを貯めて買ったプレゼントなのに毎年私と紗絵からだよって言って渡してくれていた。
私は1円も出していないのに…
そんな優しいお姉ちゃんが今、目の前で初めて怒られている…
掴んでいた腕を離すお父さん。
夏から妊娠してて先週で22週は過ぎてる。
人工中絶は22週を過ぎると出来なくなる。
お父さんは男だからわからないからだろう。
引っ叩かれた頬を抑えもせずにお姉ちゃんが言い返す。
受験生だから何?
私は推薦で高校入るし、推薦駄目でも一般で合格出来る実力は充分ある!!
子供産んだらその先は無いの?私は子供も産むし、日本一の歌手にもなる!!
何一つ捨てやしない!!
でも、いつもお姉ちゃんの味方をしてきたお父さんも今回は簡単には引き下がらない。
子供育てながら日本一の歌手になれるわけがないだろ!!
俺は今まで絵里のやることをずっと応援してきた。
でも今回ばかりは違う!!
確かに絵里は今までは、全部有言実行で生きてきたかもしれない。でも子供を育てながら何かをできるほど世の中は甘くない!!
子供の父親は誰なんだ?子供の父親はどうしたいって言ってるんだ?
相手はそもそも妊娠を知ってるのか?
俺は認めない!!
パパに何がわかるの?
相手は私が妊娠してること知らないよ!!言ってないんだから!!言うつもりもないし!!
いいよ別に!!パパに認めてもらうために生きてるわけじゃないから!!
お姉ちゃんは泣きながら、2階の自分の部屋に行ってしまった。
呆然とするお母さん。
どうしていいかわからない私。
沈黙が続く…
最初に口を開いたのはお母さん。
気まずいっていうのもあるけど、早くお姉ちゃんに残りのご飯を持って行ってあげたかったから。
いつもお姉ちゃんの味方をしていたお父さんがめちゃくちゃ怒っていて、どちらかというと反対派になることが多かったお母さんが、今回は小言も何も言っていない。