第12話 抱えた秘密
文字数 2,309文字
お父さんにもお母さんにも私の口からは言えない…
お姉ちゃんは産む気でいる。受験生なのに…
一日そしてまた一日と時間だけが過ぎていく。
お姉ちゃんは両親の前ではいつもと変わらない。
たまにつわりで吐いている時や体調が悪そうな時は、私も出来る限りは介抱した。
秋になり始まったU12空手日本代表選手として、世界大会でも私は順当に決勝まで勝ち進んだ。
山本道場ではお姉ちゃん以来の快挙となるか期待された。誕生日を迎え私は10歳になっていた。
お姉ちゃんがU12世界大会を制したのは12歳の時。
10 歳の私がジュニア世界王者となれば、私は初めて何かでお姉ちゃんを越えることが出来る。
いつもお姉ちゃんの影だった私…
やっと、絵里の妹っておまけキャラから卒業出来る。自分に自信が持てる。
そう思っていた。
決勝の相手は12歳で私より年上。身長はデカかった…海外の人はやっぱりデカいし力も強い…
初めてみんなが、私に注目している。絶対に勝ちたい。勝ってお姉ちゃんを越えたい。
そんな気持ちばかりの私。
押される試合展開、歯がたたずに焦る私。
私は絶対に勝ちたかった、それだけだった…
押される私は勝ちたいがためにズルをした…禁止されている後頭部への打撃を相手に与えた…
自分でも何でそんな事をしたのかわからない…
審判はもちろん見逃すわけがなく即反則負け…
頭が真っ白になり立ち尽くす私…
試合後家に帰るまでのことはあまり覚えていない…
でも、褒めも喜びもしない人が、二人いた…
師範とお姉ちゃんは褒めてもくれず、喜んでもくれなかった…
きっと二人ともわかっているんだろう…
私が自分が負けそうだから、勝ちたくてズルして反則したこと…
たまたま打撃が後頭部に入ってしまったわけじゃない…故意的にやったんだから…
私は空手もテコンドーも辞めたいとお母さんに言った…
お姉ちゃんの真似をしたくて初めただけ。
確かに来年も再来年も私にはU12の大会には出ることは出来る猶予がある。
でも、投げ出したかった。私はお姉ちゃんみたく猪突猛進に自分の目標に向かって突き進む力はない…
勉強にしてもスポーツにしても運動会とか学校行事とかでも、私は1番になったことなんてないんだ。
今は自分でも何がしたいかわからない…
強いて言うなら何もしたくない…
私は天才美少女アスリートの再来とか、かつてのジュニア王者の妹も逸材とか、少しだけテレビで取り上げられたけど、取材とかそういうのは全部拒否した。
そして私は空手もテコンドーも辞めた…
空手U12世界大会 準優勝
絵里についてきて、自分もやりたいってきかなかった。
その時は小さすぎてさすがに、出来なかったけどな。
お前が小学1年生の頃、泣きながら、俺と会ったのを覚えているか?
あの時お前は強くなりたいって言った。
確かに紗絵は技術面は強くなった。日本代表で世界大会で準優勝なんだ。まわりの人からしたら立派な成績だ。でも俺には今回の大会のことは何も誉めてやれることはない。
お前は泣きながら俺とあった頃と内面はたいして変わってない。弱いしもろい。
ただ相手を武力でやっつけたい、見返したい、そう思っていた小学1年生の頃の紗絵と結果は出したかもしれんが何も変わらん。
辞めるのは簡単なんだ。辞めることが悪いことだとは俺も思わないし、辞めるお前を引き留めようとか思わない。
紗絵の人生だ。何かやりたいことが出来たら、その時は頑張れ。
また、やりたいことが空手やテコンドーになった時は遠慮せずに来い。
師範にそう言われて、頭を下げて道場をあとにして、家に帰る私。
師範の言う通りなんだ。
精神的には少しは強くなったとは思う。でも私は弱くてもろい…
そしてきっとお姉ちゃんのいない空手やテコンドーの世界で私は自分を高めることより、ただお姉ちゃんを越えたい。
みんなに認められたい。承認欲求の塊みたいなもので、稽古してただけなんだ。
次の目標があったり、他にやりたいことがあって辞めたわけじゃない。
そしてお姉ちゃんとの約束を不意に思い出した。
(あぁ、私別に歌手になりたいわけじゃないけど、空手辞めちゃった…
特にやりたいことないしなぁ…
帰ったら今年の冬のT.Kレコードアカデミースクールのオーディション受けなよってお姉ちゃんに言われるんだろうなぁ…
お姉ちゃんの妊娠のこともお父さんやお母さんには言えないし、
てか、別に歌手なりたいわけじゃないなんて、姉妹で日本一の歌手になろうよって嬉しそうに言うお姉ちゃんに言えないし、
反則負けした理由も誰にも言いたくないし、
なんか胸の中に秘めてることばっかだなぁ…)
そう思いながら帰った…