第6話 いいぞ!お姉ちゃんその2

文字数 2,628文字

栃木県にある成瀬家の本家。


年始に毎年訪れる場所。今年は1日だけ泊まっていくとのことだが、毎年3日間くらい泊まるので、1日だけなら、まだ良いほうだ。


夕食の時間になると、大人達は広い成瀬家の本家の部屋で晩酌も始める。


この晩酌が始まると、集まった親族の前でお酒の入った本家の叔父さんに昔から私は小言を言われる。


また今年も来てしまった…叔父さんはお父さんの兄だ。私のお父さんは次男。叔父さんの名前は成瀬 達也(なるせ たつや)。


叔父さんのお嫁さんの名前は成瀬 美智子(なるせ みちこ)。


叔父さんには息子と娘が一人ずついる。


娘が16 歳で高校生、名前は成瀬 佳代(なるせ かよ)。


息子が13歳で中学生、名前は成瀬 勝彦(なるせ かつひこ)。


二人とも、お姉ちゃんや私からすると、いとこになるが、私達姉妹は叔父さんは達也叔父さん、叔母さんは美智子叔母さん、いとこは佳代ちゃん、勝彦君って呼んでた。

佳代ちゃんは高校は栃木県で1番の進学校に通っている。


勝彦君は中学受験をして、栃木県での名門中学に通っているらしい。


二人とも、特に性格は悪くない。達也叔父さんは学校の先生で、今は教頭先生らしい。


昔から佳代ちゃんと勝彦君は成績が優秀で、いつもお姉ちゃんと私は、このいとこ2人と比べられてきたのだが、お姉ちゃんは成績優秀で名門横浜女子学院に受かるレベルなうえに空手にテコンドーもジュニアではトップクラスなので、達也叔父さんのお気に入りだった。


私は、今までは成績とかは年齢的に関係なかったが、佳代ちゃん、勝彦君、お姉ちゃんが私の年齢くらいのときはどうだったとか毎年言われた。


ただでさえお姉ちゃんにたいして劣等感を抱いているのに、追い打ちを掛けるように、いとことお姉ちゃんと比べられるのが毎年の恒例行事…


ましてや今年は私も小学生になった…何を言われるのだろうか…


毎年優秀な、いとことお姉ちゃんと比べられて小言を言われ続けてきた私だが、お姉ちゃんは毎年私をかばってくれていた。

そして迎えた夕食の時間。他の親戚達も揃い、大広間で並んで夕飯を食べるのだが、結構なペースで大人達はお酒を飲んでいる。


お母さんは次男の嫁なので、イロイロ準備で忙しそうだ。


お父さんは結構お酒を飲んでいる。

おい、絵里ちょっと来なさい。
達也叔父さんに呼ばれ、上座にいる、本家当主の達也叔父さんの前に行くお姉ちゃん。
聞いたぞ。お前、空手とテコンドーやめて歌手になるって。


何考えてんだ?成瀬家の優秀な血を引いて、お前自身もせっかくの才能を持っているのに、何してるんだ?


勝彦は名門中学に通ってるのに、お前は横浜女子学院も受けず、空手もテコンドーもジュニアで世界王者なのにやめて、歌手だと?


あんなもんは成功してるやつは一握りで人気がなくなれば、ホームレスみたいなもんだ。


お前は成瀬家期待の星だったのに、何を考えている。


お前ならオリンピック選手も目指せる。勉強だってお前は優秀なんだ。


そんなくだらない、お歌ごっこみたいなことは辞めろ。

今まで、褒められたことしかないお姉ちゃんが達也叔父さんにお説教されている。


いつも私をかばってくれたお姉ちゃんを私が今度は助けたい。


でも、私が行けば余計に迷惑をかけるかもしれない。何も出来ない私…


空手は習い始めたばかり、大会になんて出れるレベルじゃない、勉強で優秀な結果を出したか、1年生で学校のテストは普通より上くらい?1番なわけじゃない。


一生懸命頭の中で考えてはみるけど、私が出ていけば、グダグダ言われて負けて終わり…


でも…


私はご飯を食べていた席を立った。


達也叔父さんとお姉ちゃんの所に向かう…

達也叔父さん。お姉ちゃんはお歌ごっこをするんじゃない!


日本一の歌手になるんだよ!


T.Kレコードのアカデミーに特待生で入るんだよ!


凄いんだよ!

私がそう言うと達也叔父さんはバカにしたような表情で、私に言う。
紗絵、お前からしたら、凄いことなんだろうな。


でも、ここにいる周りの人を見てみろ。


大企業勤めや弁護士、公務員、大学教授や役職に就いている者。


みんな社会の役に立つ者、それなりに地位や名誉がある者たちなんだ。


成瀬家は優秀な人が多いんだ。お歌ごっこしてるやつがいるか?


歌が好きならカラオケにでも行って歌えばいいだろ?


紗絵は日本一の歌手の意味がわかってるのか?


なれるわけがないだろ。特待生だから、日本一の歌手になれるわけじゃないだろ?


くだらない夢だ。夢だけみても生きてはいけないんだよ。


かならず後悔する。

達也叔父さんにそう言われ、お姉ちゃんを助けようとしたのに、言い返せなくなってしまった…
ちょっと、シュンとなった私。お姉ちゃんを見ると、お姉ちゃんはニコッと私に微笑みを返した。
達也叔父さんは、地位や名誉がある人が素晴らしいことで、そうじゃないことはくだらないことだって、言いたいんですか?


大企業勤めなんて会社が潰れればホームレス。


弁護士なんてバッジを付けてなければただの人。


公務員なんて国民の下僕。


大学教授なんてただのオタク。役職についてる人なんて、下に偉そうで、その上の人にペコペコしてるだけ。


そんなもんですよね?みんながみんなそうとは言わないですけど、私にはそう見えますよ?


成瀬家が優秀?どこがですか?東大出た人いるんですか?京大出た人いるんですか?


いないですよね?


権力、地位、名誉、お金、そんなことに取り憑かれた中途半端な腐った人間の集まりじゃないですか?


社会の役に立っている人間は成瀬家には数名しかいないですよ(笑)


達也叔父さんは、人に自分の意見を押し付けすぎなんじゃないですか?


なれるわけがないって最初から決めつけてたら、みんな何にもなれないですよ?


じゃあ達也叔父さんは校長先生になれるわけがないってことですか?教頭止まりですか?


私は、成瀬家の奴隷じゃない。私の人生は私が決める。例え失敗してホームレスだろうと笑われようとも、悔いのないように生きたい。


そして、私のやりたいことはお歌ごっこじゃない。


人に感動や勇気、希望を与えられる歌を私は歌って日本一の歌手になる。


夢を見てるんじゃなくて、私は人に夢を与える人になるんだ!!

お姉ちゃんは頭が良いだけじゃなくて、ああ言えばこう言うみたいな偏屈な事を言うのも得意なんだろう。


達也叔父さんは揚げ足を取られた部分も有り、負けた…

もういい。好きにしろ。
達也叔父さんはそう言うと、それ以上何も言ってこなかった。
※成瀬 絵里 12歳


栃木県の成瀬家本家を訪れた際

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登場人物紹介

今作品の主人公 成瀬 紗絵(なるせ さえ)。


本編では主人公 成瀬 紬の叔母

成瀬 絵里(主人公 成瀬 紗絵の姉)。


本編では主人公 成瀬 紬の母親。


成瀬 健一(なるせ けんいち)。紗絵、絵里の父親。

成瀬 亜希子(なるせ あきこ)。紗絵、絵里の母親。

山本 登(やまもと のぼる)。


姉の絵里が通う道場の師範。後に紗絵も通う道場。

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