文字数 490文字

 舞踏会に参加したい。そしてケント地方の女性たちの美しさに蕩けたいという誘惑が、タップマン卿の心を強く揺さぶった。
 また同時に、ジングルも連れて行くべきだと考えていた。タップマン卿自身はこの土地に詳しくなかったし、知り合いもいない。しかしジングルは勝手知ったる庭のように街を歩き、人々に溶け込んでいるようではないか。
 ウィンクル卿は眠っている。タップマン卿はこれまでの経験から、彼は目を覚ませばノソノソと寝床に行くだろうと予測がついた。まだ確証は無いが。
「ワインを注いで、残りをこっちにください」
 疲れ知らずの客人が言う。タップマン卿は言われた通りにした。そして飲み干したワインの酔いにまかせて決心した。
「ウィンクル君と私は相部屋なんだ。いま彼を起こして、この計画を説明するのは無理だ。だが彼の旅行鞄の中には夜会服がある。君にそれを着せて舞踏会に行き、帰って来たら脱いでもらって私が万事支障の無いように戻す。それならばいける」
「名案。上等な計画ですよ。しかし妙なことになったもんだ。荷箱には14着も衣装を入れてあったのに、別の男の服を着せられようとは。こりゃあ実に奇妙キテレツだ」

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